Music

今月の選曲家 haruka nakamuraSeptember 21, 2018

September.21 – September.27, 2018

Saturday Morning

Title.
Was There Nothing?
Artist.
Ásgeir
朝霧が立ち込めている。
山に滞在して三日目。
今日は森の奥にあるという湖へ向かう。
九月とは思えないほど山の朝は肌寒い。
遠くから鹿の鳴く声がする。
湖へ出ると、使い古されたボロボロの
ボートが一艇、
ふらふらと停泊していた。
霧の湖に、ひとつのボート。
星野道夫さんは、
こんな朝に船出をしたのだろうか。
旅立つ時は出来るだけ荷物を持たないように。
本当に必要なものは、
それほど多くはないのだから。
湖には鳥たちの歌声がいつまでも響いていた。
谷から谷へ、
口笛だけで言葉を交わす民族を思い出した。
山に響く旋律の会話。
彼らが愛の言葉を交わす時、
それはどんな音色となるのだろう。
アルバム『In The Silence』収録。

Sunday Night

Title.
Better Day
Artist.
STS9
鎌倉駅から江ノ島電鉄に揺られ、
稲村ガ崎駅で降りれば、そこはもう海だ。 
国道134号線沿いの店に立ち寄り、
カウンターから海を眺める。
夕暮れに浮かぶトワイライトサーファーたち。
江ノ島の先に夕日が沈んでゆく。
古い友とレンタカーで四人乗りをして、
134号を江ノ島に向かった、あの遠い夏。
夕暮れの全てが黄金に輝いていた。
その瞬間、何にでもなれる気がしていた。
カーステから永遠にリピートされていた、
僕らが好きだった曲。
今も心のどこかで鳴り続いている。
僕たちは少しでも、
描いた未来へと近づいたのだろうか。
より良き日々に。
アルバム『Artifact』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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音楽家 haruka nakamura

青森県出身。杉本博司「江之浦測候所」の映像音楽を制作。CITIZENの音楽を3シーズンに渡り務め、2018年、100周年記念の映像音楽を手がける。ミロコマチコ、柴田元幸とセッションを重ねる。現在は来年に向けて、新たに開始するバンド編成での音楽を準備中。

harukanakamura.com

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