MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/平松麻 vol.5July 30, 2021

July.30 – August.05, 2021

Saturday Morning

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Title.
Marie
Artist.
Leon Redbone
レオン・レッドボーンのことをどう表現したらいいだろう? 人間蓄音機? 歌うアメリカ音楽百科事典? ちょびヒゲ+パナマ帽+サングラス+ボウタイ+スーツが定番で、ステージでも冗談ばかり言う、経歴不明の謎のおじさん…。アメリカの戦前懐メロのみを歌う徹底ぶりで、なんだかタモリ倶楽部にキャスティングしてほしくなる。
声帯そのものがアンティークみたいで、古き良き時代の裂け目からのんびり聴こえてくるような不思議な声。タイムスリップしているのはレッドボーンなのかわたしなのか。
ゆる〜いたる~い弾き語りは、2度寝にぴったり。夏休みだもの、とりあえず冷凍庫にアイスを取りに行って、ベッドで食べて、また寝ちゃっても、まいっか。そんな気分を誘う旧い味わいの歌声。
アルバム『On The Track』収録。

Sunday Night

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Title.
In The Shade Of The Old Apple Tree

Artist.
Duke Ellington And His Orchestra
周防正行監督の『シコふんじゃった。』のエンディングに流れるおおたか静流の「林檎の木の下で」に、10歳ながらなぜか希望を覚えたことがある。
30歳になって、荒木町の隅にある渋いスナックのご主人とディック・ミネバージョンをデュエットしたことなんかもある。蝶ネクタイを締めた上背がある老紳士は静かな笑顔で「この曲ならば」とマイクをとってくださった。デュエットなんて後にも先にもこのときだけ。
100年以上も前のこの曲を世界中さまざまなミュージシャンがカバーするなか、39歳になった今はデューク・エリントンを楽しんでいる。スカッとする。ビアガーデンに流れていたら最高だなあ。九段会館屋上のバニーガールにジョッキを運んできてもらった光景がなつかしい。
2021年の夏、色んな思いをかみしめます。周知の1曲を聴きながら、林檎の木の下でまた会いましょう——。
アルバム『Drop Me Off At Harlem』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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画家 平松麻

1982年生まれ、東京都出身。油彩画を主として展覧会での作品発表を軸に活動する。2020年6月~2021年末まで、朝日新聞夕刊連載小説、柴田元幸新訳「ガリバー旅行記」の挿絵を担当中。森岡督行『本と店主』(誠文堂新光社)、村上春樹・アンデルセン文学賞受賞の講演テキスト『MONKEY vol.11』(SWITCH PUBLISHING)、穂村弘『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』(河出書房新社)、三品輝起『雑貨の終わり』(新潮社)など挿画も手掛ける。マッチ箱に絵を描くシリーズ「Things Once Mine かつてここにいたもの」も発表中。

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