MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/アン・サリー vol.3January 18, 2019

January.18 – January.24, 2019

Saturday Morning

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Title.
Green Aphrodisiac
Artist.
Corinne Bailey Rae
やっと辿り着いた土曜朝の静寂。この時を手に入れるために平日を駆け抜けてきたのだ。澄み切った朝の無音を破るのは、幸福感に溢れる音楽であってほしい。朝の空腹に何を入れるかが身体にとって大切なように、眠りで空っぽに乾いた感性のグラスを最初に満たすものだから。コリーヌの、かつて愛する人を亡くし、失意の澱に漂うようだったセピア色の心象風景は、こうして色彩を取り戻し、生きる方向へと力強く回復の兆しを見せていることに心から安堵する。立ち上がれないほどの深い傷も、いつかは癒える日が来ると信じさせてくれる。そうして、傷の経験は、同じく傷を負った者への慈しみの眼差しへと昇華していくのだろう。
アルバム『The Heart Speaks in Whispers』収録。

Sunday Night

Title.
(There Is) No Greater Love
Artist.
Amy Winehouse
歌をうたう者は、自らの発する声に少なからず中毒しているからこそ、歌うことで得られる悦楽のボタンを飽くことなく押し続けるという側面があると思う。さらに現実の中の不安、孤独、悲しみが深ければ深いほど、我を忘れて声を発することで得られる麻酔の効果はより大きくなる。だが、時にあまりに深すぎる孤独は音楽への心酔だけでは癒えず、男、薬、酒への依存にも及び、破滅をもたらす程に際限なく自らを傷つけてしまう。このアルバムの時期には、まだ歌うことの原初的喜びがその倍音豊かな声に溢れていて、そのためにその後の転帰の闇もより深く感じられる。でもその深い陰影こそがまた、聴く者を強く惹きつけ中毒させるのだ。
アルバム『Frank』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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シンガーソングライター アン・サリー

2001年『Voyage』でアルバムデビュー。2003年『Day Dream』『Moon Dance』のロングセラー以後、待望の最新CD『Bon Temps』を含む、多数アルバムを発表。また数々のCMや映画の主題歌を歌唱し、日本全国、アジア地域で演奏活動を広げるシンガー&ドクター。暮らしの中で緩やかに芽吹いた日々の想いは、ほころぶ花のように芳醇な歌声と、花蜜の抽出された名曲群へと昇華され、幅広い層に届けられている。

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