Art素顔の芸術家たち

This Month Artist: Jean Tinguely / July 10, 2016 ジャン・ティンゲリー

Author

河内 タカ

JeanTinguely
Jean Tinguely
1925-1991 / CHE
No. 032

スイスのフリブールに生まれ。クルト・シュヴィッタースに影響を受け、1950年代末から廃棄物となった家電や機械のパーツを組み合わせて動く美術作品「キネティック・アート」を制作。パリ移住後、イヴ・クラインやニキ・ド・サンファルらと知り合い「ヌーヴォー・レアリスム」のメンバーとなる。代表作にバーゼル市内に恒久的に設置されている『噴水の劇場』などがある。

不器用に動く廃品を再利用した彫刻
ジャン・ティンゲリーの「キネティック・アート」

 ゴミとか拾ったものとかを洗練されたアート作品にしてしまうアーティストとして有名なのはドイツのクルト・シュヴィッタースでしたが、そのシュヴィッタースから直接的な影響を受けたのがジャン・ティンゲリーというスイス生まれのアーティストでした。ぼくは、バーゼルのライン河畔に立つティンゲリー美術館に行ったことがあって、そのゆったりとしたスペースに展示されていたかなりの点数の作品を見終わった後に、「今まで食わず嫌いだっただけで、この人はとんでもなくすごいのかも!」と思ってしまったのです。

 ティンゲリーはスイスに生まれ、バーゼルでアートを学び、その後パリで活動していましたが、再びバーゼルに戻り、アトリエを構えて制作を行っていたため、バーゼルにゆかりのアーティストとして知られています。家電や機械の部品、タイヤ、針金といった廃物と工場用のモーターを使って制作するティンゲリーは、作品が生きもののように動く「キネティック・アート」の先駆的な人物として知られていて、パリ時代には「ヌーヴォー・レアリスム」のメンバーとして前述のイヴ・クラインらとも親交を持ち、彼の二番目の妻でもあったニキ・ド・サンファルとは、遊び心のある大規模な共作を行いました。そのひとつとしてポンピドゥー・センターに隣接する場所に設置されている『自動人形の噴水』があります。

 ティンゲリー美術館の展示は、作品に繋がれた大きなボタンを足で踏むと作品が動き出すという仕組みになっていて、そのほとんど25年以上は経っているにもかかわらず、まったく問題なく作動していたのがちょっと驚きでした。特徴的ともいえるその黒く有機的な作品は、昔の町工場から響いてくるようなギーギーと不器用な音を立てて動き出し、しばらくするとまた眠りにつくように静かな彫刻に戻るというものです。ぼくは最初、「動く彫刻なんてすぐに飽きるだろう」とどこか好きになれなかったものの、彼の作品をじっくり見て、その誰にも真似できない独特のモダニズム的な空気感や、アレキサンダー・カルダーやハンス・アルプにも近い有機的な造形にぐっと引き込まれ魅了されてしまったのです。

 ティングリーはさらに、過度に工業製品が作られていることを揶揄するかのような作品も手がけていて、『ニューヨーク讃歌』という1961年にMoMAで展示した大規模な作品では、最後に作品そのものを倒壊させるための自爆装置が仕掛けられていたり、『世界の終わりのための試作 No.2』という作品では、ラスヴェガス近郊の砂漠で、詰めかけた観衆の前で作品を完全に爆破させるという人騒がせなパフォーマンスを行ったりもしました。まあ、そういった過激さやお茶目なところも多々あったティンゲリーですが、彼の作品を一通り見終わった頃に感じたのは、この人がいかに楽しみながら作品作りに取り組んでいたかであり、そのことはやっぱりモノを作る上で大切なわけで、彼の不器用に動くアートのことを嫌う要素はどこにも見当たらないよなぁ、とティンゲリー美術館を出る頃に思ってしまったのでした。

Illustration: Sander Studio

Jean Tinguely

『Jean Tinguely: Multiple Words』(Walther Konig)廃棄物を材料とした、皮肉とユーモア、ウィットに富んだ動く彫刻で知られるジャン・ティンゲリー。単なる遊び心だけでなく時事的かつ批判的な一面も持つ彼の作品の魅力を、芸術史の専門家たちが探って書籍化した最初の作品集。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し、展覧会のキュレーションや写真集の編集を数多く手がけ2011年に帰国。アマナの写真コレクションのディレクターに就任。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行した。現在は、京都便利堂において写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した業務に携わっている。