Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/原 摩利彦 vol.2August 14, 2020

August.14 – August.20, 2020

Saturday Morning

Title.
Atoms Song
Artist.
Teebs(feat. Thomas Stankiewicz)
素晴らしい一作品を出し、その後は沈黙するアーティストがいる。新作はいつまで経っても発表されず、類似、あるいは関連作品といわれるものを推薦されてもしっくりこない。ぽつんと浮かんだ孤島のように、名盤の周囲には海が広がっているだけで、繰り返しそこに戻って聴くしかない。京都で活動していたSora『Re:sort』(2003)とカールステン・ニコライの別名義Aleph-1『Aleph-1』(2008)の続編を長年聴きたかったが、Teebsのこの曲を聴いて満足できたような気がする。両者を足して2で割ったような作品では全くないが、ずっと求めていたものを感じ取った。転勤生活をしていた祖父が愛媛に永住を決めたのは、その土地の雰囲気がなんとなく故郷の芦屋に似ていたからと生前言っていたが、似たような感情かもしれない。
アルバム『Anicca』収録。

Sunday Night

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Title.
Darha Nopigom : I. Reverently
Artist.
Hwang Byungki(황병기)
今から数年前、東京にある中銀カプセルタワーに滞在して作品を作ったことがある。建築家黒川紀章によるメタボリズム建築の代表作品で、小さなカプセルが積み重なった集合住宅である。オープンリールデッキやラジオなどが組み込まれた家具や円窓から見下ろす首都高に数十年前の「未来」を感じた。その未来感とは相入れないようなのに、韓国の伝統楽器カヤグム(伽倻琴)の曲を滞在中ずっと聴いていた。でもそのミスマッチは気持ちのよいものだった。
2020年、家にいる生活が続いてまたカヤグムをよく聴くようになったのは、カプセルの中にいた時のある種の孤独感のようなものをまた感じているのだろうか。ところでこの曲の最初の短い響きは永久に聴いてられるように美しく、録音も現代的な音がする。
​​アルバム『The Best Of Korean Gayageum Music』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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音楽家 原 摩利彦

京都を拠点に活動。国内外問わす現代アートや舞台芸術、インスタレーションから映画音楽まで幅広く活躍。最近では松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳ら豪華俳優陣が出演、読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞し話題となった野田秀樹演出の舞台作 『Q:A Night At The Kabuki』でサウンドデザインを担当。日本を代表するアートコレクティブ『ダムタイプ』のメンバーとしても活動。世界ツアーも大盛況となり森山未來もダンサーとして参加している世界的振付師ダミアン・ジャレ(トム・ヨーク『ANIMA』の映像作品の振付も担当)と彫刻家名和晃平によるプロジェクト『Vessel』では坂本龍一と共に劇伴を手がける。Apple 新CM『Macの向こうから ̶ 新海誠』に楽曲が起用されるなど、次から次へと活動の場を広げている。3年ぶりとなる待望のソロ作品『PASSION』が今年6月5日にリリースされた。

marihikohara.com/works

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