長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子。
vol.14 タイムのパン・デ・ローHerbal Sweets / May 21, 2021
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第14回は「タイムのパン・デ・ロー」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「タイムのパン・デ・ロー」
手で食べたくなる、フレンドリーなポルトガルのカステラ。
しとしとと静かにゆっくりと空から降り続く五月雨。まっすぐに伸びる雨のライン、小さな葉っぱについたまんまるのしずく、雨に濡れた花——。そして、時折訪れる梅雨晴れの真っ青な空のブルー。天気の移ろいや風情を繊細に感じられる季節に呼応して、自然と内省的な時間が増える気がします。そんな瞬間に、ふと去来するのは「サウダージ」というポルトガル語のフィーリング。ノスタルジアや甘苦い懐かしさを表現した、ポルトガル語で歌われる「ボサノヴァ」が耳に心地よく響きます。5月はそんな音楽を聴きながら、ポルトガル生まれのお菓子を作るという、ちょっとした“遊び”を楽しんでみるのはいかがでしょう。日本で食べられるカステラのルーツともいわれる、「パン・デ・ロー」は、ボサノヴァのスタンダードナンバーのように、ポルトガルの“ホームメイド・ケーキ”のクラシックとして長く愛されてきたお菓子です。20分あったら完成する手軽さにも心躍ります。卵が味の輪郭になるので、平飼いでのびのびと育った鶏の新鮮な卵を使うのがおすすめ。味のひとひねりとして、タイムをすりつぶして、爽やかな風味づけをしてみましょう。口の中に広がる気品ある香りと、ふわふわとした生地の食感は、どこか郷愁に駆られる味わいでクセになりそうです。
レシピ 1個(15cm)分
・全卵1 個
・卵黄3個
・きび砂糖40g
・薄力粉30g
・タイムふた枝分
・ブランデー5ml
How to cook
photo: Hiroko Matsubara edit & text : Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
器:インド食器、スウェーデンアンティークのグラスほか
<プロフィール>
菓子監修 長田佳子〈foodremedies〉
菓子研究家。レストラン、パティスリーなどでの修業を経て、YAECAフード部門「PLAIN BAKERY」でメニュー開発、お菓子の製造を担う。2015年に独立。〈foodremedies〉という屋号でハーブやスパイスなどを使ったまるでアロマが広がるような、体に素直に響くお菓子を研究している。著書に『季節を味わう癒しのお菓子』(扶桑社)、『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)などがある。