花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
しめ縄と餅花で「正月」飾り。Vol.7 / August 05, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
しめ縄と餅花で「正月」飾り。
〈みたて〉が一年でもっとも忙しくなるのは正月飾りを用意する年の瀬。京都ではポピュラーで門松の原型とされる根曳き松。蓬莱山に登る龍をあらわした掛け蓬莱。松と稲穂のモダンな門松。高野箒や稲藁の餅花など、伝統を伝えつつ独特のセンスで切り取った正月飾りは、凜とした空気と控えめな華やかさをもたらしてくれるものばかり。
稲藁に餅を付け、しめ縄に仕立てた「雪のれん」もそのひとつ。しめ縄の上の縄は雲、垂れる稲藁は雨といわれる。そこに雪に見立てた餅を付けることから、その名となった。新年は気持ち新たに神様を迎えたいという原点に返った時に、稲藁が身近にある農家ならこんな飾りを作り、自然の恵みに感謝し、大地を潤す雨と五穀豊穣を願ったのではないかとイメージを膨らませたもの。どこかの時代や地方で、誰かが作っていたかもしれないと思わせる意匠を意識するという。1本の稲藁には12個の餅が付けられており、その年の十二カ月と、十二支の意味も込められている。稲藁と白い餅だけで作られた飾りは、光を受けて餅が浮かび上がり、素朴さと品を兼ね備えた姿に。花のない冬の時季の花でもある雪。梅など初春の花が咲き出す頃まで飾るのもいい。
雪のれんが飾られた家の中、新年の食卓を彩るのは平安の公家文化を受け継ぐ白味噌の雑煮。餅は丸く円満にの意味を込めた丸餅。甘くふくよかな味わいの雑煮と共に、豊かな一年を祈りたい。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年1月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。