花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
「冬至」の「ん」づくし。Vol.6 / July 29, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
「冬至」の「ん」づくし。
冬至は一年で最も太陽の位置が低く、昼が短い日。易の考え方では陰の気が極まり、転じて陽の気の始まりとなることから、一陽来復(いちようらいふく)とも呼ばれ、冬が終わり春が来るという意味を持つ。
この日を境に日一日と強くなる太陽の力と共により一層、運気が高まるようにと、冬至七種を食べる町衆文化がかつての京都にはあった。七種と書いてななくさと読む。なんきん・にんじん・れんこん・ぎんなん・きんかん・かんてん・うんどん(うどんの古い呼び名)。「ん」が2つ付く食べ物で、縁起をかついで運を強くし、冬の間に乏しくなりがちな栄養を補ったという。成功するには幸運と根気と鈍いくらいの粘り強さが必要ということわざ「運根鈍」にあやかり、語呂合わせした食材でもある。
〈みたて〉冬至のあしらいは、今ではほとんど見ることのなくなったその風習からイメージを膨らませたもの。きんかん、ぎんなんに換えた銀杏と共に、南天と早蓮木(かんれんぼく)を神棚に使われる榊立てに投げ入れた。南天は難を転じるといわれ縁起のよい木。英名ではハッピーツリーと呼ばれる早蓮木。どちらも縁起がよく、名前に「ん」が付いた植物を選び、冬至七種のきまりにならった。小さなバナナのようにも見える早蓮木が、おとなしい構図に動きをつけてくれる組み合わせ。花飾りについてはとりたてて決めごとのない冬至。それだけに自在なアレンジが節気を切り取ってくれる。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2015年12月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。