花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」

青々と滴る「山のたより」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.48July 21, 2022

花屋<みたて>に習う植物と歳時記 折々に見立てる 京の暮らし

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

青々と滴る「山のたより」。 みたて

青々と滴る「山のたより」。

 咲き誇る桜とともに喧騒に包まれる春が終われば、京都で暮らす者にとって待望の季節がやってくる。蒸し暑い夏がやってくるまでの、ほんのひと月ほどの間。三方に見える山々はもちろん、永観堂や毘沙門堂、神護寺といった紅葉の名所も青楓に覆われ、街全体が新緑に包まれる京都は瑞々しく美しい。ひと足延ばして鞍馬や貴船へと足を運べば、野趣あふれる山道も青楓に覆われ、鮮やかさもひときわ。はっと息をのむ美しさに、見惚れることだろう。かつて藤原定家は「影ひたす 水さえ色ぞ緑なる 四方の梢のおなじ若葉に」(四方の木々がすべて若葉なので、影を映す水の色まで緑に見えるようだ)と詠み、吉田兼好は「徒然草」第139段で「卯月ばかりの若楓、すべて万(よろず)の花・紅葉にもまさりてめでたきものなり」(卯月の頃の若楓は、すべての花や紅葉にもまさって 素晴らしいものだ)と綴った。先人たちにとってもまた、心沸く眺めだったに違いない。
 そんな季節に『みたて』から届くのは、手折った青楓のひと枝を添えた、山からのたより。文には言葉を添えずとも、青々とした枝は雄弁に、山滴る京の景色を伝えてくれる。受け取ればすぐに花器に生けたり、水に浮かべたり。思い思いに新緑を愛でることができる仕掛けとなっている。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2019年7月号より。


花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

hanaya-mitate.com

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