花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
刻々と移り変わる「椿灯路」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.45June 30, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
刻々と移り変わる「椿灯路」。
節分を終えて底冷えの冬をやり過ごし、桜が咲き始めるまでのひととき。いつも賑わう街もすっと静かに思える、そんな早春の京都を彩るのが東山・花灯路(はなとうろ)だ。青蓮院門跡から八坂神社、高台寺、八坂の塔、清水寺と連なる東山の寺社がライトアップに浮かび、それらを結ぶ神宮道やねねの道、二年坂から三年坂には足元を照らす灯路が置かれる。2003年に始まったまだ新しい行事であるものの、風情溢れる東山が夜の灯りに浮かびあがる姿は昼とはまた違った表情を醸し出し、すでにこの季節の風物詩となっている。伝統とはこうしてつくられていくのだと感じさせる行事のひとつ。
江戸時代の灯明皿や韓国の燭台を並べ、写し取 った『みたて』の東山・花灯路。「藪椿」や「秋の月」といった存在感ある椿を飾り、蝋燭の小さな灯りをそっと添えた。時は夕闇が迫る頃。暮れてゆくのとともに灯りが際立ち、椿を照らし出す。明るい日の光の中にあったのとは異なる表情を見せる花の姿に、新たな美しさを見る。花と灯りと。刻々と移り変わる様子は、夕暮れこそがもたらすインスタレーションとなっている。
今年の東山・花灯路ももう間もなく。とっぷり暮れてしまう前に足を運び、街並みが灯りに浮かびあがってゆく様を楽しみたいものだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2019年4月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。