花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
凍てる空気も伝える「敷松葉」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.42April 21, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
凍てる空気も伝える「敷松葉」。
11月も終わりに近づき、南座にまねきが上がるとたちまち京都の街には年末の空気が漂いだす。まねきとは12月に行われる「吉例顔見世興行」に出演する歌舞伎役者の名を、勘亭流と呼ばれる独特の書体で書き上げた看板のこと。長さ1間(約1・8m)もあるまねきが40枚ほど、ずらりと並ぶ姿は圧巻。南座が再開場した今年は、例外的に10月の終わりにまねきが上がったものの、例年は師走の風物詩だ。
12月に入ると千本釈迦堂や了徳寺、三宝寺、妙満寺などで行われるのが大根焚きの行事。大鍋で炊いた大根が諸病や中風除けとして振る舞われる。
祇園をはじめとする花街では毎年12月13日は事始め。芸舞妓さんが世話になった先へ挨拶にまわり、正月の準備を始める日となっている。
様々な行事と同様、敷松葉もまた冬を告げる風物。庭の苔を霜から守るため、松葉を一面に敷き詰める。実用性に加え趣を添えるためにも使われ、俳句の世界では冬の季語でもある。
木箱に苔を敷き、松葉と南天の実を散らした「敷松葉」は『みたて』が作る正月飾りのひとつ。苔の緑に枯れ松葉の茶色のコントラストは、冬の庭の風情を写し取ったもの。南天の赤が控えめに、けれどもしっかりと華やかさを添えている。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2019年1月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。