花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
旅する「木舟の藤袴」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.39March 31, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
旅する「木舟の藤袴」。
藤袴は夏の終わりから秋にかけ、小さく可憐な花を咲かせる秋の七草のひとつ。葉や茎からほのかに桜餅のような匂いが漂うのが特徴だ。紀貫之の詠んだ「やどりせし 人の形見か 藤袴 忘られがたき 香に匂ひつつ」(泊まっていった人の形見だろうか、この藤袴は。忘れられない香りが漂っているのです)の歌が古今和歌集に収められているように、平安時代にはすでに貴族がその香りを楽しんだという。古くから愛されてきた花なのだ。
『みたて』初秋のあしらいは、小さな木舟に藤袴をそっと生けたもの。かつては子どもの玩具だったと思われる、プリミティブな舟を花器に見立てたその訳は、藤袴を好む蝶・アサギマダラにある。翅(はね)が半透明の浅葱(あさぎ)色であることからその名がついた蝶は、春から夏にかけては北へ、秋になると南へと旅するのだ。藤袴などの蜜を体にたっぷりと蓄え、日本と台湾の間、2000㎞もの距離を移動することもあるという。時には行願寺や下御霊神社で開かれる藤袴祭や、500株もの藤袴が咲き誇る大原野など、京都でも目にすることができるアサギマダラ。旅する蝶からイメージを膨らませた木舟。その生命力や透きとおった浅葱色の翅の美しさへも思いを馳せながら、素朴な花の姿を愛でたい藤袴のあしらいだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2018年10月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。