花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
須恵器に浮かべ愛でる「菊酒」。Vol.29 / January 20, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
須恵器に浮かべ愛でる「菊酒」。
重陽の節句に厄除けや長寿の力を持つとされる菊の花びらを酒に浸して飲む菊酒は、平安時代に中国から日本へと伝えられた風習。「十三まいり」で知られる嵐山の虚空蔵法輪寺(こくうぞうほうりんじ)や、女性の守り神・市比賣(いちひめ)神社、芸能の神様の車折(くるまざき)神社などでは重陽の行事が行われ、参拝の人々に御神酒に菊の花びらを浮かべた菊酒が振る舞われる。とりわけ虚空蔵法輪寺の重陽の節会では菊の雫で長寿を得たと伝わる菊慈童像が祀られ、金剛流の能「枕慈童」が奉納されることもあって、人気の高い秋の風物詩となっている。
新暦では9月9日、旧暦では10月となる重陽の節句。『みたて』では菊酒が日本へ伝わった平安の頃に思いを馳せ、須恵器と愛らしい野菊で菊酒のあしらいとした。器の胴の部分に開けられた穴に竹筒などを挿し、水を注いだり吸ったりしたと伝わる瓦泉(はそう)を使い、同じ須恵器の碗に2輪の花をそっと浮かべた。古墳時代から平安時代まで作られた須恵器は、高温で焼き締められた土器。青とも灰色ともつかない色あいや、プリミティブな形が素朴で美しく、野菊の白を引き立てるようだ。うだるような暑さもようやく終わり、過ごしやすい秋の日。開けた窓から入ってくる秋風で時折、花がゆらゆらと揺れるのもまた風情。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2017年11月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。