花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
秋を閉じ込めた「虫籠」。Vol.16 / October 21, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
秋を閉じ込めた「虫籠」。
昼はまだまだ暑い京都の9月も、夜になればぐっと過ごしやすくなるもの。気持ちよい夜風が吹く宵のひとときに、風情を添えてくれるのが虫の声だ。寺社仏閣、緑も豊かな円山公園や京都御苑、高瀬川や白川の川べりなど、そぞろ歩けば耳に飛び込んでくる虫の音。『源氏物語』にも女三宮と光源氏が詠んだ「おほかたの秋をば憂しと知りにしを ふり棄てがたきすず虫の声(秋はつらいものとよくわかっているけれど、鈴虫の声を聞くと秋もまた捨てがたいと思う)」「心もて草のやどりをいとへども なほすず虫の声ぞふりせぬ(あなたは出家してしまいましたが、その姿は鈴虫の声のように美しい)」の歌から名付けられた第38帖「鈴虫」があるように、平安の頃から虫の音を聞くことは秋の風物詩として愛されてきた。
この季節は〈みたて〉でも、店内に流す音楽の代わりに鈴虫の音色を響かせ、夜は鈴虫の籠を枕元に置いて過ごすという。
古い鳥籠を花器に見立てた今月の〈みたて〉。樹木が化石になった木化石を中心に山苔、シノブ、マメヅタをあしらい、鈴虫を入れたテラリウムで9月の京都を切り取った。緑の中に放たれた鈴虫は逃げてしまうこともなく、おとなしい。籠の中に写し取られた山野と、時折リーンリーンと聞こえる鈴虫の声がまた、秋の野山を彷彿とさせてくれる。目で愛でて、耳で楽しむあしらいは、普段にも増して五感を刺激してくれるようだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年10月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。