真似をしたくなる、サンドイッチ

カリッと香ばしい衣に、ハーブがこんもり。ファラフェルサンドの新定番!August 01, 2023

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。今回は、本誌No117に登場した『ブロッシュ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

具材を分析した精巧なスケッチを毎回ご紹介。今回の主役はファラフェルサンドです。サンドイッチ 川村明子
具材を分析した精巧なスケッチを毎回ご紹介。今回の主役はファラフェルサンドです。

パリのユダヤ人街の名物フードといえば。

パリを訪れて、ユダヤ人街の名物フードとも言えるファラフェルサンドを食べたことのある人は、少なくないだろう。ひよこ豆を潰してコロッケにしたものを主役に、揚げナスや刻んだ赤キャベツなどがたんまりとピタパンに詰められたサンドイッチだ。私も、学生時代(もう20年以上前です......)よく食べに行った。最初は、あまりのボリュームに全部食べきれなくて、一緒に行く誰かといつも半分こしていた。そして、ニンニクがとても強くて、口の中に残るその味を緩和したい思いで、飲み物は決まってコーラを選んだ。時が経ち、フランスでの食生活にもすっかり慣れて一人で一個食べ切れるようにはなったものの、久々に食べようかなと思うと、ニンニクの強さとお腹が張る食後感が頭をよぎり、いつしか足が遠のいた。

ファラフェルサンドにも変化が。

さらに時代はうつろい、イスラエルをルーツに持つシェフの店が増えたここ数年で、ファラフェルサンドの味に変化が見られるようになった。かつて、敬遠する要素の一つであったニンニクの存在感が以前よりも薄い。この連載Vol.20で紹介した『ディゼン』の共同オーナーは「ニンニクは味も強いし、胃にも負担がかかるから、好きじゃない」とお腹をさすりながら言っていた。そして2023年春。これまでのファラフェルサンドと一線を画すニューフェイスが登場した。「ファラフェルサンドといえば」で思い浮かぶ定番の具材を詰め合わせておらず、ほぼ別物の印象だ。

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見た目の色の渋さに、期待が高まった。

色味の少ないサンドイッチは、内に秘めた何かがありそうで、ワクワクする。『ブロッシュ』のファラフェルは、一般的なファラフェルサンドで目にするものよりひと回り、いや、ふた回り近く大きめでまん丸だ。大量のハーブに囲まれ、白いソースがかかっている。中に詰められた他の具が何かは分からないまま、頭ひとつ出ているそれにかじりついた。揚げたてのコロッケというだけですでにおいしいのに、カリッと香ばしい衣に加え、プチプチした食感が口の中を賑わす。見ると、ひよこ豆は粗く潰されているようだ。ナッツ類とも麦とも異なる歯応えを快く感じながら、今度はハーブがこんもり盛られた部分を食べると、ゆで卵がいた。

奥底に、もう一つファラフェルが。全部で3つ入っている。 川村明子 サンドイッチ
奥底に、もう一つファラフェルが。全部で3つ入っている。

一緒に口の中に入ってきたパセリの風味が濃く、舌先で感じた味はまっすぐに鼻に抜けた。次に顔を出したズッキーニは、輪切りではなく縦に長く切られていて、揚げられているのではなく焼かれている。とてもジューシーだ。パセリと同じくらい緑の濃い葉は何かと思い、フォークで拾い上げたらホウレン草だった。口に充満する味が、濃い緑色をしているようだ。味付けは、上にかかったヨーグルトベースの白いソースだけで、ゆえに、ピタパンは、水分でずぶずぶにならずふかふかしたまま。ハーブの風味はダイレクトで、焼き野菜を齧るとその焼き汁に野菜のエキスを感じた。

中はこんなふうにちょっとつぶつぶ。
中はこんなふうにちょっとつぶつぶ。
自家製アリッサがおいしいのです。親元の『アダー・トレトゥール/Adar Traiteur』で瓶詰めで売っている。(私は自宅にコレ常備しています)
自家製アリッサがおいしいのです。親元の『アダー・トレトゥール/Adar Traiteur』で瓶詰めで売っている。(私は自宅にコレ常備しています)

途中で、そうだ!と思い、自家製アリッサをつけた。この店のアリッサは燻製香を纏っておいしいのだ。それで、新たに食べたところで、ファラフェルサンド自体にはニンニクが入っていないことに気がついた。あとで聞いたところ、ヨーグルトソースにほんの少しニンニクを加えているらしいけれど、ごくわずかで、味として感じない程度にとどめているとのこと。そのヨーグルトソースは、キュウリのジュースで伸ばしているそうだ。パセリの風味の濃さは、「香りが異なるから」と、フレッシュとドライの2種を加えていることで生まれているともわかった。

<a href="https://andpremium.jp/book/premium-no-117/">本誌No117</a>で紹介したシャワルマサンド。こちらも野菜がふんだん。ごまクリームのソースと、マンゴーがベースの少しスパイシーなソースがかかっている。川村明子 サンドイッチ
本誌No117で紹介したシャワルマサンド。こちらも野菜がふんだん。ゴマクリームのソースと、マンゴーがベースの少しスパイシーなソースがかかっている。

ともかく、「フレッシュな野菜をめいっぱい食べた!」という満足感を得られるのは、この店のもう一つの看板料理、シャワルマサンドでも同じだ。この2品がメインで、あとはサイドメニューとしてフライドポテトと単品のファラフェルが掲げられるのみ。店名の『ブロッシュ』は焼き串の意味で、シャワルマとは肉を何枚も重ねて鉄串に刺し、回転させながら焼く料理を指す。ロースターだと鉄串を縦に嵌め込むが、この店では薪焼きで、焼き串を横に渡し、じっくりと火を通す。薪焼きゆえの肉の香味はやっぱり魅力的だ。

今年6月に開催されたポップアップではサンドイッチ以外の料理もあって、こちらはトロトロの焼きナス。
今年6月に開催されたポップアップではサンドイッチ以外の料理もあって、こちらはトロトロの焼きナス。
串焼きしてほぐしたアンコウが詰まってる。これ、もう一回食べたいなぁ。
串焼きしてほぐしたアンコウが詰まってる。これ、もう一回食べたいなぁ。
サイドメニューのポテトは太めのタイプ。ヨーグルトソースがかかってくる。
サイドメニューのポテトは太めのタイプ。ヨーグルトソースがかかってくる。

オープンから2カ月半を迎えた2023年の夏至に、『ブロッシュ』で初のポップアップが開催された。ゲストシェフは連載初回を飾った『ペニーレイン』を立ち上げたヨハンだったから(今はフリーで活動)、ぜひとも食べたい!と駆けつけた。ポップアップのスペシャルピタパンサンドは、アンコウのシャワルマ。シャワルマとは、通常、肉焼きを指し、魚を用いることはないらしい。伝統スタイルで作る今日の料理と言えるアンコウのピタパンサンドは、たっぷりのコリアンダーに青唐辛子のピクルスがアクセントで、海辺で食べたくなるような、夏の気分にぴったりなおいしさだった。こんなサンドイッチ食べるの初めてだなぁと、また新たな扉が開いた感じがした。今後もポップアップを積極的に企画する予定だという。楽しみだ。

『Broche』

49, passage des Panoramas 75002 ☎️なし 12:00〜15:00 日休 ピタパンサンドはハーフサイズもオーダー可。 サンドイッチ 川村明子
49, passage des Panoramas 75002 ☎️なし   12:00〜15:00 日休 ピタパンサンドはハーフサイズもオーダー可。


文筆家 川村 明子

パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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