真似をしたくなる、サンドイッチ
揚げナスとゆで卵、魅惑の組み合わせ。
パリで話題のイスラエルサンド。真似をしたくなる、サンドイッチ Vol.20September 01, 2022
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。今回は、本誌No106に登場した『ディゼン』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。
パリのイスラエルサンドに新顔が登場。
パリで圧倒的な市民権を得ている中東のサンドイッチといえばファラフェルだ。マレ地区のユダヤ人街に行けば、ファラフェルサンドを看板料理に掲げる店が何軒も見つかる。ひよこ豆のコロッケ(=ファラフェル)がピタパンに詰められ、サンドイッチ一つでおなかいっぱいになるコンパクトながらボリューム満点の一品だ。
パリでは数年前から、イスラエル料理の人気が高まり、随分と店が増えた。それに伴い、かつてはファラフェル一辺倒だったサンドイッチのバリエーションも広がって、これまでになかった具材も見かけるようになった。
ブームかと思われた波がすっかり定着した頃、新顔が登場した。スティック状のフライが突き刺さっていて、何かと思ったら、揚げナスという。その店『ディゼン』は、揚げナスが主役のサンドイッチと、サイドメニューでファラフェル(サンドイッチではなく、コロッケ)だけを売っていた。オープンしたのは2021年の12月。真冬に食べてみたけれど、やっぱりこれはナスの旬に食べたいと思い、夏がやってきて再訪した。
揚げナスとゆで卵の、魅惑の組み合わせ。
毎夏、ナスの季節が来るたびに、「ナスと油の相性は最高だ!」と思う。だから、このサンドイッチを食べたときに、どうしてこれまでナスのフライを具にしたサンドイッチを食べたことがなかったのか、にわかに不思議に感じられた。ファラフェルサンドには、ナスの素揚げが入っていることが多い。でも、素揚げと衣をまとったフライはやっぱり違う。そして、これも毎年のことだけれど、夏の暑いときになぜか私は無性に揚げ物が食べたくなるのだ。
店は販売カウンターだけで、注文すると、ピタパンに具材を詰めていく様子を目の前で見ることができる。ピタパンの底にまず練りゴマソース、ハーブで作る緑色のアリッサを塗り、その上に、野菜ブイヨンの中で火を通したジャガイモ、季節野菜の角切りを詰め込む。すでに一度揚げていたナスを揚げ直してカラッと仕上がったら、縦に差し込み、最後にゆで卵を注意深く、加える。このゆで卵、周りが少しベージュがかっている。
そもそも「サビー」というサンドイッチは、もともと宗教的な伝統に則った食べ物だそうだ。ユダヤ教で土曜日は休日で、火を使わない日でもある。その土曜の食事のために、金曜日の夜から弱火で(かつては余熱で)肉や野菜にじっくり火を通し作るダフィナという料理があり、翌日、そのダフィナの残り物で作るのが「サビー」。
今ではサビーも独立した一料理としていつでも食べられるが、『ディゼン』では、“残り物の味が染みた具”のようにしたくて、野菜のブイヨンにゆで卵を漬け込んでいる。「ニタマゴ(煮卵)と似た感じ」と説明してくれた。
ナスのフライも、ゆで卵もすごく身近な存在なのに、このふたつの組み合わせをメインに食べたことってなかったなぁと新鮮な驚きがあった。さらには、練りゴマのソースを合わせると、硬派な味に早変わりする。ナス好きも、ゆで卵好きも、たくさんいると思う。これ、食べてみてほしいなぁ。