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Duke Ellington 『In the Uncommon Market』 連載コラム : Rintaro Sekizuka #1January 07, 2025
怒涛のような2024年が終わり、正月の年はじめ、少し落ち着いた時間を過ごしたあとに、今年はどんな年にしようか考えていました。
心機一転決意を新たに......と考えに耽っていましたが、1月3日の朝、近所の銭湯が「朝湯」なるものを8時からしているということを知り、ふらっと行ってみたところ、考えていたことがすっかり変わりました。
たまに行く下町らしい昔ながらの銭湯が近所にあります。年始ということで今日は誰もいないかと思ったら、お爺さん方数人が箱根駅伝を裸で見ながら頷いている光景が目に入りました。自分も仲間入りした気分になり、嬉しいやらなんやら複雑な心境のまま中に入りました。
体感45度の熱いお湯にゆっくりつかったあと、小さい水風呂が設置されている隅っこに行き、数分目を瞑って頭を上げた時にふと目に入ったのが、番台さんが書いたコラムでした。「季節感が足りない」と少し不満げなタイトル。
要は銭湯は一年中熱いから四季を感じることが少ない。ということでした。
夏もTシャツ、冬も外に出たら着こんでいるが、中に入ると一日中Tシャツだから結局一年中Tシャツ。
クリスマスもテレビがないからいつ来るかわからない、年末年始も営業で忙しいからわからない。なるほど、季節感が足りないですね。と一人裸で頷いてしまいました。
この年始の寒い中、番台さんが一年中Tシャツでいられることは羨ましいなと思いつつ、番台さんの一年の苦労を感じ、そして人柄の良さのにじみ出た文章を読んでいたら、いつの間にか体がキンキンに冷えていました。
そのあとは湯船に再びつかり、ポカポカの状態で銭湯を出て、喫茶店で彼女とこの番台さんはいい人なんじゃないか、どういう人なんだろうと真剣に話していた時に、ふと気がつきました。なんでこんなことを真面目に話しているんだろうと。
なんでも真剣に考えることが癖になってしまっているようなので、今年は気楽にいったらいいんじゃないかという話になり、新年の抱負がそこで決まりました。
“Flying because I'm taking myself lightly.”
昨年は色々あって、心も体も緊張が抜けきれないことが多かったです。真面目さも、挑戦することも、決意を固めることも大事ですが、楽しむこと、愉快でいること、肩の力を抜くことを忘れちゃいけないなと番台さんに気づかされました。
そんな番台さんにこのアルバムを送りたいと思います。
Duke Ellington楽団による60年代後半のライブコンサートの録音で、アルバム名は『In the Uncommon Market』。
聴くたびに、これが60年以上も前の演奏だということに驚かされます。
Norman Granzがプロデュースを始めてから、イタリア、スウェーデン、フランスをツアーで回った中のライブ録音を集めたアルバムなので、実際に演奏された季節はわかりません。
私は勝手に冬のこの時期に演奏していたんじゃないかと思っています。
この演奏が、60年後の2025年というはるか未来で銭湯の番台さんに聴かれているということは、Duke本人はもちろん、だれも想像していなかった未来でしょう。番台さんが音楽で少し四季を感じられる日常になるといいなと、陰ながら応援しています。
いつも本当にお世話になります。
今年も通わせて頂きますが、何卒宜しくお願いいたします。
edit : Sayuri Otobe