MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/小田朋美 vol.2October 08, 2021
October.08 – October.14, 2021
Saturday Morning

都内某日、とある喫茶店。店主の絵が飾られているけど雰囲気は全然飾ってない、タバコの吸えるこの喫茶店では、さまざまな会話が交わされていた。そもそも店主がお客さんと山本リンダの話で盛り上がりすぎて、わたしが店に入って来たことに気付いていない。マスク越しに少し大きめの声で自分の存在を知らせて、席につく。
この日は、「鹿皮シェイカー」を購入するために、フレームドラム奏者・制作者の久田祐三さんと待ち合わせしていた。このシェイカーはとても変わった音のするシェイカーで、以前も購入したのだけど、ある日この楽器を使っていたら「自分もぜひ欲しい!」と知り合いに頼まれたので、またさらに仕入れることになった。
テーブルに積み上げられたシェイカーを振って楽器を選定しながら、久田さんと色んな話をする。喫茶店でシェイカー振ってて大丈夫かと一瞬心配になるも、タバコの煙にも寛容な喫茶店だからか、みんなそれぞれのテーブルでのストーリーに没頭しているからか、誰も気にしていない様子。喫茶店のポリリズム。
害獣駆除されてしまった鹿の皮で制作されたフレームドラム、そしてさらに余った皮を利用して作られたシェイカー。楽器は常に命と関わっている。太鼓は動物の皮が起源だし、ホルンは今でこそ金属だけどもともと象や牛の角だったし、三味線は猫や犬の皮、ヴァイオリンは木、弓は馬毛……他にも枚挙にいとまなく、動物や植物の命を分けてもらってできているのが楽器であり、音楽だ。
自分が思い入れのある音楽を紹介することがこの企画の趣旨だとは承知しつつ、最近出合った音楽をリアルタイムに紹介できるのもウェブメディアの醍醐味だなと思うので、今回は久田さんに教えてもらって新しく出会った、フレームドラムの音楽を。エジプトのウード奏者、ハムザ・エル・ディンのアルバムから。
アルバム『Available Sound – Darius』収録。
Sunday Night

用があって久しぶりに実家に帰り、置いてきてしまったCD棚を眺める。
思い入れのあるアルバムもたくさんあるが、なんでこのCDを買ったんだろう? と思い出せないものもある。誰かに紹介されたんだろうか? 何か興味を持つきっかけの曲が入っているのだろうか? と手に取ってまじまじ眺めていると、直接関係なさそうなことを突然思い出したりする。空港の構内から覗いた青空の形、当時付き合っていた人が住んでいた家の匂い、駅のホームで友達に言われた言葉、CD棚は自由連想の宝庫。
学生時代のコレクションだからかクラシックが中心で、他のジャンルは極端に少なく、自分の偏りを反省したりするが、その中で、黄緑の背表紙&赤いジャケットのこのアルバムが目を引いた。
先週に引き続いてカバー曲で、Stingの名曲を伊藤君子さんが歌った「Fragile」。このアルバムは武満徹作曲の「MI・YO・TA」が聴きたくて買った記憶があるが、小曽根真さんプロデュースによるアルバムが全体を通して素晴らしく、何度も聴き込んだ。その中でもこの曲はお気に入りだったが、当時The PoliceもStingも知らない無知なわたしは、伊藤さんのオリジナル曲だと勘違いして聴いていて、原曲を知るのは少し後のこと。
10代でこの「Fragile」を聴いた時、自分の思春期的な心象に共振させて聴いていた気がするが、今は、自分という存在を超えて人間そのもの、世界そのものの儚さを歌うこの曲に惹かれる。本当に良い曲って、カバーされてもなお輝くもの。
アルバム『Once You’ve Been In Love』収録。
作曲家、ヴォーカリスト、ピアニスト 小田朋美
