写真家 大森 克己
February 24, 2017 今月の選曲家 大森克己
February.24 – March.03, 2017
Saturday Morning

20歳をほんの少し過ぎたばかりのブラームスが1854年に書いたピアノ三重奏曲が生々しい新鮮な光を放っている。自分の師の妻に恋してしまった「感じまくっている若い男」がここにいる。抑制することの出来ない何かが溢れていて、それはややもすると鬱陶しい混沌としか呼べないものでもあるのだが、音楽という言語を手にしていたブラームスはその混沌をギリギリのところで形にしている。その抑制できない混沌を抱えながら生き続けたブラームスは50歳を過ぎてからこの曲の冗長な部分を削除し改訂するのですが、ボクはこの初稿版の演奏がとても好きです。まだ髭の無いブラームスの肖像。
アルバム『(PianoTrio)verklarte Nacht: Trio Jean Paul +brahms: Piano Trio, 1』収録。
アルバム『(PianoTrio)verklarte Nacht: Trio Jean Paul +brahms: Piano Trio, 1』収録。
Sunday Night

音楽というものは個人が所有するものではなくて、皆と歌うものなんだな、ということがこの曲を聴くとはっきりとわかる。ハーモニーという言葉の既成概念を鮮やかに更新してくれる美しい合唱。ブルガリアの声。
アルバム『Le Mystère des Voix Bulgares』収録。
アルバム『Le Mystère des Voix Bulgares』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

February 17, 2017 今月の選曲家 大森克己
February.17 – February.23, 2017
Saturday Morning

おそらく無意識下の僕の音楽体験のルーツのひとつが13歳まで毎日曜日に通っていた教会の讃美歌の響き。両親がクリスチャンだったのです。そしてもうひとつが1970年代の歌謡曲。ジャズやラテンやアメリカ南部の空気をそれとは知らずに歌謡曲を通して吸収していたのだと思います。この曲は1974年、僕が小学5年生の時に大ヒット。舌ったらずのヴォーカルとキャラメル・ママの演奏のコンビネーションが絶妙で、間奏のピアノが南の何処かへ旅に連れていってくれるよう。掃除や洗い物をしながら聴くと思わず一緒に口ずさんでしまうな。
アルバム『アグネスの小さな日記』収録。
アルバム『アグネスの小さな日記』収録。
Sunday Night

もうとっくに自分は大人のはずなんだけど、大人になったらこんな人になりたいっていう理想の男です、カエタノ・ヴェローゾ。もし自分が女だったら一緒に暮らしたい。洒落者とはこういう人のことですね。はじめて聴いたのは何の曲だったかなあ? ささやくように呟くように歌われるオリジナル曲が素晴らしいのは勿論ですが、この人が歌うスタンダードもまた素敵。小さな声で語ることの大切さを分かっている大人の男が歌う香水みたいなラテン・ダンス・ナンバー。プエルト・リコ出身のラファエル・エルナンデスという人の曲。
アルバム『Fina Estmpa』収録。
アルバム『Fina Estmpa』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

February 10, 2017 今月の選曲家 大森克己
February.10 – February.16, 2017
Saturday Morning

「君のためだけに歌うよ」と云ってベッドサイドで恋人のためにギターの弾き語りをするっていうのはどうだろう? ちょっと照れちゃうかもね。でもいつかやって来るそんな時のためにギターを練習してみよう。母国語ではない外国語の歌を弾き語ってみて思うのは言葉、ヴォーカルにも打楽器的な側面がはっきりとあるということ。人生に意味なんてあるのかどうかは分からないけれど、人生にとってリズム感は大切だな。あと、小さな声で伝わる何か。子音に宿る何か。
アルバム『In Between Dreams』収録。
アルバム『In Between Dreams』収録。
Sunday Night

こちらも弾き語りだけれども誰かのために歌うというよりは、夜の虚空に向かって語りかけるような孤独な音楽。デヴィッド・ボウイがこの曲のオリジナルを発表した1972年にはCDもiTunesもパソコンも携帯電話もSNSも無かったんだよなあ。誰にもいえない秘密を抱えて人は生きていて、でもとくべつな瞬間に誰かと出会ってその秘密を共有できることがごく稀にあるのかもしれない、そんな希望。
アルバム『The Life Aquatic Studio Sessions』収録。
アルバム『The Life Aquatic Studio Sessions』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

February 03, 2017 今月の選曲家 大森克己
February.03 – February.09, 2017
Saturday Morning

1790年のオペラ・ブッファ「コジ・ファン・トゥッテ」。モーツァルトが素晴らしいのは一見凡庸に思える物語や会話の中に振り切れた、とんでもない景色が垣間見える所。若い頃はそんなことはまったく分からなかった。最近はほんの少しなら分かるような気が。「追いかけて、逃げて、捕まえられて、重なって、また離れる」という感じ。主語は聴きながら考えてくださいね。通して聴くと3時間かかりますが時間のたっぷりとある土曜の午前中に是非。序曲だけでも。クルレンツィス&ムジカ・エテルナの盤が最高です。
アルバム『Mozart: Così fan tutte』収録。
アルバム『Mozart: Così fan tutte』収録。
Sunday Night

16世紀に活躍したフランドル楽派の作曲家ラッススの素敵なシャンソン。詩が素晴らしいので訳してみました。「こんにちは、私のハート、私の甘い生命、私の目、私の親愛なる友よ、あぁ、私のとびきりの美しいひとよ、私の可愛いひとよ、私の優しい春、私の可愛い初々しい花、私の甘い喜び、私の恋人、私の可愛い小鳩、私の雀、私の美しいきじ鳩、こんにちは、私の甘い反逆」(詩 Pierre de Ronsard)最後の「ma douce rebelle」っていう言葉が日曜の夜遅くにグッと来る。
アルバム『Lasso:Lieder、Chansons、Madrigals 』収録。
アルバム『Lasso:Lieder、Chansons、Madrigals 』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

写真家 大森 克己

1994年、第3回写真新世紀優秀賞。国内外での写真展や写真集を通じて作品を発表。近年は MEM での個展「sounds and things」(2014)「when the memory leaves you」(2015)、ギャラリー・トラックスでの個展「 #soundsandthings 」(2015)など精力的に活動を行っている。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒの Museum Rietberg 「 GARDENS OF THE WORLD 」(2016)などのグループ展に参加。主な写真集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『encounter』(マッチアンドカンパニー)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。「BRUTUS」 や「 SWITCH 」などの雑誌や「花椿」「雛形」などの WEB マガジンでも多くの撮影をしている。