MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/原 摩利彦 vol.4August 28, 2020

August.28 – September.03, 2020

Saturday Morning

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Title.
Home/Home
Artist.
R Mccarthy
早朝に子どもを抱いてベランダに出る。8月も終わりが近づき、セミの声がしなくなった。まだむっとする蒸し暑さだが、ときどき秋の涼しい風を感じる。これから初めての秋だね、と顔を見ると、眩しいのか、また眠たくなったのか、目を細めてまどろんでいるようだ。遠くの方で鳥の声と車の音が少し聞こえるだけのとても静かな朝。部屋に戻るとこの曲をかけたくなった。パリ在住のこの音楽家は本当に作りたい時だけ音楽を作るという。おそらく一人で多重録音しているのだろう。ヘッドフォンで聴くとサーッというノイズが入っていて、街の音もうっすら入っている。この曲を聴いていると、これから始まる一日がとても楽しみになってくる。どこに行くわけでもなく、ずっと家にいるだけなのに。
アルバム『Dick Arkive: Issue 3』収録。

Sunday Night

Title.
Havik
Artist.
Kim Kashkashian, Robyn Schulkowsky, Tigran Mansurian
南宋の世捨人、真山民(しんさんみん)のわずか4行の詩「山閒秋夜(さんかんしゅうや)」の最後の句には、こおろぎが鳴いたことで、山の静けさと寒々しさが感じられたとある。音があってこそ、静けさが沁み渡る情景が描かれている。この姓名、生没年不明の詩人はどのような音を聴いていたのだろうか。 ヴィオラとパーカッションのための「Havik」(ティグラン・マンスリアン作曲)はこの15年間、何度も夜に聴いてきた。「静謐な音楽」というと、この曲が最初に頭に浮かぶ。2曲目からはアルメニア近代音楽の父と言われるコミタスの小品群がマンスリアンによるかすれた歌とピアノで演奏される。微分音(ドとド# などの半音をさらに細かく分けた音程)を含むヴィオラの旋律は美しく、パーカッションは時折、鹿威しのように聞こえる。すると京都法然院の方丈庭園の鹿威しを思い出し、敷地内にある谷崎潤一郎の墓に刻まれた「寂」という字に辿り着く。
アルバム『Music Of Komitas And Tigran Mansurian』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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音楽家 原 摩利彦

京都を拠点に活動。国内外問わす現代アートや舞台芸術、インスタレーションから映画音楽まで幅広く活躍。最近では松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳ら豪華俳優陣が出演、読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞し話題となった野田秀樹演出の舞台作 『Q:A Night At The Kabuki』でサウンドデザインを担当。日本を代表するアートコレクティブ『ダムタイプ』のメンバーとしても活動。世界ツアーも大盛況となり森山未來もダンサーとして参加している世界的振付師ダミアン・ジャレ(トム・ヨーク『ANIMA』の映像作品の振付も担当)と彫刻家名和晃平によるプロジェクト『Vessel』では坂本龍一と共に劇伴を手がける。Apple 新CM『Macの向こうから ̶ 新海誠』に楽曲が起用されるなど、次から次へと活動の場を広げている。3年ぶりとなる待望のソロ作品『PASSION』が今年6月5日にリリースされた。

marihikohara.com/works

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