MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/江﨑文武 vol.4October 28, 2022

October.28 – November.03, 2022

Saturday Morning

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Title.
Bolted Orange
Artist.
Fuubutsushi

毎週続けてきた連載も、ついに最終回。特定の曜日の特定の時間について思いを巡らせるという経験はこれまでにほとんどしてこなかったので、執筆中にいろいろな思い出が蘇ってきて、楽しいひと時だった。振り返ってみれば、学生時代の土日はかなり賑やかな土日を過ごしていた。対して、大人になってひとりで過ごす土曜の朝は、とても静かだ。起き抜けにエチオピア産の豆を挽いて朝の一杯を…なんて言ってみたいところだけれど、うだうだと布団で過ごしてしまう。二度寝、三度寝を重ねて昼になっていることも多々ある。そんな怠惰な自分に嫌気がして、たまに早起きをして家を出てみても、花金の夜ふかしが影響なのか、電車はがらんとしているし、タクシーもあまり走っていない。なんだ、みんなまだ眠いんだな、と思う。土曜の朝はきっと、社会全体が気を抜いている。そんな時間なのだ。上京して10年が経ち、いろいろな意味で「圧倒的に速い」、東京の街と人のテンポ感にもすっかり慣れてしまったけれど、土曜の朝だけは豊かなゆとりを感じる。

Fuubutsushiはアンビエント作家4名によるアメリカのアンビエント・ジャズバンド。日系4世のメンバーを擁する。バンド名はもちろん“風物詩”から来ているし、四季に合わせて作品をリリースするなど、日本が大きなテーマになっている。2020年に結成されていて、グラミー賞を起点とした昨今のジャパニーズ・アンビエントの再評価や、アンビエント・ジャズ、あるいはクール・ジャズ再評価の流れを汲んでいるのだが、近いサウンドのアーティストと比較しても「間の感覚」に非常に日本的な心地よさを感じる。テンポもビートもない。ただ呼吸の心地よさに従って進んでいく。そんな日があってもいいよな、と思う。

アルバム『Fuubutsushi』収録。

Sunday Night

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Title.
Peace Piece
Artist.
Green-House

大人になったら、きっと日曜の夜はウイスキーを片手に音楽を嗜むダンディなおじさまになるものだと思っていたけれど、現実は全く違った。片手にウイスキーなんてないばかりか、曜日感覚もない。加えて、日曜日は〆切に設定されることが多いので、とにかく深夜まで曲を作っている。曲を作っている時は夢中になっていて、飲み食べもしないし、当然ながら好きな音楽は聴けない。ダンディなおじさまを夢見た子どもは、両手でマウスとキーボードを操作しながら、同じような音を真顔で、深夜まで繰り返し聴いたり出したりする大人になった。字面だけ見るとまあまあ怖い。そんなこんなで制作に没頭しているので、日曜の夜は、気付けば月曜の朝になっていることがある。

ロサンゼルスを拠点に活動しているGreen-Houseの「Peace Piece」は、そんな夜と朝の挟間を行き来しているような気持ちになれる1曲。元はビル・エヴァンスの曲で、ジャズのみならず、クラシックやアンビエント、ヒップホップなどのジャンルでもカヴァーあるいはサンプリングされている。鳥の囀りから始まるGreen-Houseのカヴァーは、一聴すると朝を想起するのだけど、エレピやピアノが中心になる場面では夜を感じる。まさに、日曜の夜が月曜の朝に接続する、あの瞬間。納期の終わりを告げる太陽が地平線から顔を出す瞬間の曲なのだ。え? 日曜締め切りってことは日曜日の23:59までなんじゃないの? …音楽家にとっての日曜の夜は、多分月曜の朝までを指すんだと思う。そう信じている。

シングル「Peace Piece」収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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音楽家 江﨑 文武

1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONK, millennium paradeでキーボードを務めるほか、King Gnu, Vaundyなど数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(監督 清水崇、原作 山本英夫)をはじめ劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への参加など、さまざまな領域を自由に横断しながら活動を続ける。2021年、ソロでの音楽活動をスタート。

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