MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/江﨑文武 vol.2October 14, 2022
October.14 – October.20, 2022
Saturday Morning

この上なく美しいストリングスのクレッシェンドに、歌心たっぷりのチェロが合流。主役のオーボエにバトンタッチするまでの一連の流れが見事で、目覚めながら泣きそうになる。オリジナルよりも、こちらのバージョンが好きだ。モリコーネについては言わずと知れた巨匠なのであれこれと書く必要もないのだけれど、やはりメロディーのセンスがずば抜けていると思う(モリコーネのご子息と対談したことがあるのだが、ご本人はメロディーばかり言及されることに辟易としていたらしい)。
今では朝は好きなだけ寝ていることがほとんどになってしまったけれど、アラームの音はずっとモリコーネ。フェス出演で早起きな土曜の朝も。
アルバム『Yo-Yo Ma Plays Ennio Morricone』収録。
Sunday Night

家族揃って食卓を囲みながら見る大河ドラマ。なかでも、本編後に流れる、史実とちょっとした豆知識を織り交ぜたコーナーが好きだった。風景などの資料映像とナレーション、そして主題歌の小編成バージョンが中心なのだけど、この小編成バージョンがいつも素敵だった。
その後のちょっとした隙間時間で、誰かが夕飯の片付けをしたり、風呂に入ったり、明日の準備をしたりしているうちに、スムーズに始まる日曜劇場。この何気ない家族のルーティンで見ていた日曜劇場が、まさか人生を変える出合いをもたらすとは。2004年版ドラマ『砂の器』との出合いだ。『砂の器』は松本清張原作、作曲家が主人公の物語で、これまで何度も映像化され、そのたびに物語の重要な要素となる楽曲「宿命」が作曲されてきた。衝撃を受けたのは2004年版:千住明作曲による「宿命」。
もともとチャイコフスキーやラフマニノフが好きだったので、この手の重厚なピアノとロマンチックな和声は好みのど真ん中だった。生まれて初めてオーケストラスコアを買い、これまでにない集中力でピアノパートを練習していたら、母が背中を押してくれて、そのままこの曲で地元のフェスに出演した。小6のソロ・ピアニストとしての出演だった。このタイミングに人前で演奏する楽しさを知っていなければ、音楽を続けていなかったかもしれない、と思うと、実に思い出深い日曜の夜の1曲。
ちなみに、ドラマのエンディング曲はDREAMS COME TRUEの「やさしいキスをして」。「宿命」と同じぐらい繰り返し聴いた。18年後、ライブで同じステージに立ち、レコーディングにも参加することになるよ、とあの頃の自分に教えたい。
アルバム『砂の器オリジナル・サウンドトラック』収録。
音楽家 江﨑 文武
