Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/江﨑文武 vol.2October 14, 2022

October.14 – October.20, 2022

Saturday Morning

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Title.
The Mission: Gabriel’s Oboe
Artist.
Yo-Yo Ma Plays Ennio Morricone
はじめて携帯電話を手にしたのは高校1年生の時だった。日本に上陸したばかりのiPhone 3G。中学時代は携帯を持つことが許されず、ガラケーをパカパカする友人を見ては羨ましく思っていた。携帯電話を手に入れたらやってみたいこと、そのうちの1つが着メロの設定だった。今ではすっかり下火になってしまった文化だけれど、iPhoneにも着信音をカスタムする機能があり、iTunesからお気に入りの曲を設定できた。着信音のみならず、アラーム音もカスタムした。目覚まし代わりのiPhoneに、なるべく快適な目覚めになる音楽を設定しよう、と選んだのはヨーヨー・マ演奏による、エンニオ・モリコーネ作曲「ミッション:ガブリエルのオーボエ」。

この上なく美しいストリングスのクレッシェンドに、歌心たっぷりのチェロが合流。主役のオーボエにバトンタッチするまでの一連の流れが見事で、目覚めながら泣きそうになる。オリジナルよりも、こちらのバージョンが好きだ。モリコーネについては言わずと知れた巨匠なのであれこれと書く必要もないのだけれど、やはりメロディーのセンスがずば抜けていると思う(モリコーネのご子息と対談したことがあるのだが、ご本人はメロディーばかり言及されることに辟易としていたらしい)。

今では朝は好きなだけ寝ていることがほとんどになってしまったけれど、アラームの音はずっとモリコーネ。フェス出演で早起きな土曜の朝も。
アルバム『Yo-Yo Ma Plays Ennio Morricone』収録。

Sunday Night

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Title.
千住明ピアノ協奏曲「宿命」第一楽章
Artist.
千住明
日曜の夜のことを振り返ってみると、ほとんど大河ドラマと日曜劇場の思い出しかない。どうやらギリギリ、テレビを見て育った世代らしい。

家族揃って食卓を囲みながら見る大河ドラマ。なかでも、本編後に流れる、史実とちょっとした豆知識を織り交ぜたコーナーが好きだった。風景などの資料映像とナレーション、そして主題歌の小編成バージョンが中心なのだけど、この小編成バージョンがいつも素敵だった。

その後のちょっとした隙間時間で、誰かが夕飯の片付けをしたり、風呂に入ったり、明日の準備をしたりしているうちに、スムーズに始まる日曜劇場。この何気ない家族のルーティンで見ていた日曜劇場が、まさか人生を変える出合いをもたらすとは。2004年版ドラマ『砂の器』との出合いだ。『砂の器』は松本清張原作、作曲家が主人公の物語で、これまで何度も映像化され、そのたびに物語の重要な要素となる楽曲「宿命」が作曲されてきた。衝撃を受けたのは2004年版:千住明作曲による「宿命」。

もともとチャイコフスキーやラフマニノフが好きだったので、この手の重厚なピアノとロマンチックな和声は好みのど真ん中だった。生まれて初めてオーケストラスコアを買い、これまでにない集中力でピアノパートを練習していたら、母が背中を押してくれて、そのままこの曲で地元のフェスに出演した。小6のソロ・ピアニストとしての出演だった。このタイミングに人前で演奏する楽しさを知っていなければ、音楽を続けていなかったかもしれない、と思うと、実に思い出深い日曜の夜の1曲。

ちなみに、ドラマのエンディング曲はDREAMS COME TRUEの「やさしいキスをして」。「宿命」と同じぐらい繰り返し聴いた。18年後、ライブで同じステージに立ち、レコーディングにも参加することになるよ、とあの頃の自分に教えたい。
アルバム『砂の器オリジナル・サウンドトラック』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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音楽家 江﨑 文武

1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONK, millennium paradeでキーボードを務めるほか、King Gnu, Vaundyなど数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(監督 清水崇、原作 山本英夫)をはじめ劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への参加など、さまざまな領域を自由に横断しながら活動を続ける。2021年、ソロでの音楽活動をスタート。

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