MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/江﨑文武 vol.1October 07, 2022
October.07 – October.13, 2022
Saturday Morning

土曜の朝、という言葉を聞くと、小学校の土曜登校を思い出す。92年生まれなので、小学校の低学年までは「ゆとり以前」の教育を受けていて、午前授業の文化は残っていたし、その頃の土曜はまだ社会全体として、休日と平日の狭間のような空気が漂っていた。午前に授業はあるけれど、それが終われば、たくさん遊べる。少しだけ制約があるからこそ、その後訪れる自由に心躍らせることができる。希望に満ちた午後に向かって、勇み足で登校していた、そんな土曜の朝。
「今夜の楽しみ」というタイトルのこの曲は、まさに土曜の朝のそんな空気を思い出させてくれる1曲。
ドイツの名門レーベル〈ECM〉からジャズ、現代音楽、アンビエントなどの作品を発表しているチェリスト、デヴィッド・ダーリングによる作品で、印象的な歌は台湾の少数民族であるブヌン族の合唱音楽。実際に現地に赴き、村人に温かく迎えられながら制作されたという背景もあり、人の温かさや生命の美しさを感じ取らずにはいられない。
アルバム『David Darling & The Wulu Bunun / Mudanin Kata』収録。
Sunday Night

大学を卒業してからずっと、音楽を生業にしている。一般的なタイム感とはかけ離れた生活をしているので、この連載の先輩諸氏と同様、曜日の感覚は随分鈍くなってしまった。ご多分に漏れず、朝も苦手だ。とはいえ、もともと睡眠がとても浅く、少しの物音で目覚めてしまうから、起きられないわけではないし、寝坊したこともほとんどない。単純に、思っているように頭が働かないから苦手だ。そんなこともあって、午前中は起きていてもできるだけ地面に対して平行なまま過ごしている。
一方で、夜はとても元気だ。ただし、出歩くわけではない。街の静けさも手伝って、本当に仕事に集中できる。ほとんどの場合は音楽を制作しているのだけれど、デスクワークが中心の時は、静かな音楽を聴きながら深夜の時間を過ごす。静まり返った夜の部屋に薄く音楽をかけるのは、薄い氷に覆われた湖の上をスケート靴で滑り出す時のような、ちょっとしたスリルがある。まあ、湖でスケートなんてしたことないんですけどね。
「Night Lights」の出だし3音は、そう言った意味では、ベストオブ滑り出しだ。たった3音の導入をきっかけに、抑制のきいたドラムのブラシが後に続き、ギターはさりげなく華を添える。音数を増やし、派手なプレイで観衆を魅了していたバップ時代のジャズへのカウンターとして、クールさを前面に押し出し、構築的な音楽表現を追求したジェリー・マリガン。初めて聴いたのは中学から高校に上がる時だっただろうか。夜更かしのお供にこれ以上の作品はない。…なんて言い切っちゃうとこの後の自分の連載がやりにくくなりますね、まだ初回なのに。
アルバム『Night Lights』収録。
一方で、夜はとても元気だ。ただし、出歩くわけではない。街の静けさも手伝って、本当に仕事に集中できる。ほとんどの場合は音楽を制作しているのだけれど、デスクワークが中心の時は、静かな音楽を聴きながら深夜の時間を過ごす。静まり返った夜の部屋に薄く音楽をかけるのは、薄い氷に覆われた湖の上をスケート靴で滑り出す時のような、ちょっとしたスリルがある。まあ、湖でスケートなんてしたことないんですけどね。
「Night Lights」の出だし3音は、そう言った意味では、ベストオブ滑り出しだ。たった3音の導入をきっかけに、抑制のきいたドラムのブラシが後に続き、ギターはさりげなく華を添える。音数を増やし、派手なプレイで観衆を魅了していたバップ時代のジャズへのカウンターとして、クールさを前面に押し出し、構築的な音楽表現を追求したジェリー・マリガン。初めて聴いたのは中学から高校に上がる時だっただろうか。夜更かしのお供にこれ以上の作品はない。…なんて言い切っちゃうとこの後の自分の連載がやりにくくなりますね、まだ初回なのに。
アルバム『Night Lights』収録。
音楽家 江﨑 文武

1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONK, millennium paradeでキーボードを務めるほか、King Gnu, Vaundyなど数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(監督 清水崇、原作 山本英夫)をはじめ劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への参加など、さまざまな領域を自由に横断しながら活動を続ける。2021年、ソロでの音楽活動をスタート。