MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/小池アミイゴ vol.4March 27, 2020
March.27 – April.02, 2020
Saturday Morning

土曜日は自分にまとわりついたキャラを削ぎ落とす必要がある。人から言われる「あなたらしいわね」も、自分で語る「わたしはこういう人だから、」も、土曜日は必要としていない。ただキャラは無理やり剥がすと痛々しい傷を残すので、ジワリ自分を温めることで、キャラが勝手に剥がれ落ちるような曲が必要なのだ。沖縄の古い唄、アイルランドの生活のリズム、台湾の若き客家人の音楽。今はアルゼンチンの若者が今を唄い奏でるフォルクローレが流れている。「癒し」ではなく「なぐさめ」、「施す」ものではなく「与える」もの。生きるに余分なキャラの剥がれた私は、薄手のコートを羽織り、なぐさめを必要とするあなたに会うため家を出た。
アルバム『La Hora Diminuta』収録。
アルバム『La Hora Diminuta』収録。
Sunday Night

ホテルのロビーに足を踏み入れる手前で、ボクは彼女と腕を組み姿勢を正した。3つ星ホテルでボクたちは若く見すぼらしい。「だいじょぶなの?」彼女が囁く。「わからない」とボク。宿泊客を装いロビーを横断してゆくと、ラウンジのピアニストと目が合った気がした。曲が変わる。ヒラヒラヒラと音の粒が流れ落ちるようなイントロ。自分の足取りが優雅なものに変わる。日曜の夜の花見の馬鹿騒ぎにうんざりし、逃げ出した知り合ったばかりの2人は、トイレに困り、場違いな場所で「星くず」と名付けられた曲に守られ、ささやかな目的を達成する。「今夜が土曜の夜だったら?」心に灯る仮説もただヒラヒラと星屑のごとく、日曜の夜に軽く会釈した2人は、それぞれ帰るべき方に消えていった。
アルバム『Sweet Melody For Hawaii』収録。
アルバム『Sweet Melody For Hawaii』収録。
イラストレーター 小池 アミイゴ

群馬県生まれ。長澤節主催のセツモードセミナーで絵と生き方を学ぶ。フリーのイラストレーターとして1988年から活動スタート。 書籍や雑誌、広告等の仕事に加え、音楽家のアートワークも手がける。1990年代はいくつかのバンドの鍵盤奏者として活動する傍、CLUB DJとしてイベントを主催、clammbonやハナレグミなど多くのアーティストの実験現場として機能させる。2000年代はローカルをテーマに日本各地で暮らす人とライブイベントやワークショップ、展覧会を開催。2011年3月11日以降「東日本」をテーマに絵を描くことをライフワークにしている。