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Art

This Month Artist: Theo van Doesburg / July 10, 2019 河内タカの素顔の芸術家たち。
テオ・ファン・ドゥースブルフ

Theo van Doesburg
Theo van Doesburg / テオ・ファン・ドゥースブルフ
1883-1931 / NLD
No.068

オランダのユトレヒトに生まれ、カンディンスキーの影響のもと抽象絵画に傾倒し美術評論家としても活躍。1917年にピエト・モンドリアンやバート・ファン・デル・レックらとともに「デ・ステイル」を結成し同名の芸術雑誌を創刊。1922年にはヴァイマルのバウハウスで教鞭を取り、それまで表現主義的であった同校の方針の転換となっていった。また、ロシア構成主義でエル・リシツキー、ダダイストであったトリスタン・ツァラやハンス・アルプらとも交流、1925年には『エレメンタリズム宣言』を行い、「デ・ステイル」の理念を絵画だけでなく建築や装飾や日常生活のツールなどにまで幅広く適用することを唱えた。

対角線を必要とした芸術家
テオ・ファン・ドゥースブルフ

 ピエト・モンドリアンが「新造形主義」という抽象絵画に関する決定的な芸術概念を打ち出したことが発端となり、オランダにおいて「デ・ステイル」という芸術運動が起こったのが1925年のこと。そもそも新造形主義とはなんだったのか? それは、自然の描写ではなく、造形表現を追及していった結果として生まれた垂直と水平の線と原色による表現を指す言葉であり、ゆえに「モンドリアン・スタイル」がすなわち「新造形主義」であると言い切っていいのかもしれません。そして、モンドリアンの揺るぎないコンセプトに強く触発され、芸術雑誌『デ・ステイル』を創刊したのが、オランダのライデンに生まれたテオ・ファン・ドゥースブルフでした。この人は日本での知名度はモンドリアンに比べて低いものの、実は欧米のモダンアートとモダン建築界においてはかなりの重要人物とされているのです。



 デ・ステイルとはオランダ語で「様式」を意味する言葉なのですが、1917年にその創刊号が出版され、その考え方に基づく同名の芸術グループが組織されたことで、アート、デザイン、文学、詩、建築等に強い影響を及ぼしていったわけですが、その中心人物とされたのがドゥースブルフでした。垂直と水平という厳密な幾何学をベースにしたスタイルを押し進めたこのグループは、規律的な様式に沿った建築や抽象絵画を重視し、さらには1920年代初頭にバウハウスと交流、またエル・リシツキーらのロシア構成主義者たちとトリスタン・ツァラやジャン・アルプらダダイストたちとの橋渡し役になるなど、国境や芸術の分野を越えた活動を行なったムーブメントを起こしました。しかし、モンドリアンは後にドゥースブルフともめてデ・ステイルを離脱するのですが、その理由がなんと「対角線」だったのです。そう、モンドリアンの辞書には「対角線」という文字はなかったのです。



 一方のドゥースブルフは、絵画のみにとどまらず建築デザインにおいても実用性を追求していたため、「垂直と水平だけでなく、対角線もないといかん!」という考えを強く持っていたこともあって、絵でしか自分の崇高な理念は到達できないと考えていたモンドリアンは「なら、わたしは辞めさせてもらう」という結果になってしまったのです。『デ・ステイル』は創刊から1928年まで刊行されたのですが、雑誌という流通性の高いメディアであったがゆえに、ドゥースブルフらが追求した芸術スタイルは世界中のアヴァンギャルド・シーンに浸透していき、多くのアーティスト、建築家、デザイナーたちに影響を及ぼしていきました。ディック・ブルーナの「ミッフィー」やイヴ・サン=ローランの「モンドリアン・ルック」などはそのほんの一例であり、その核となっていたのがドゥースブルフの芸術やデザインや理念だったのです。

 それほどの大きな影響力を持っていたのにもかかわらず、彼のことが日本ではあまり取り上げられないのが不思議でならないのですが、モンドリアンという覚えやすい名前と違い、もしかしたら「テオ・ファン・ドゥースブルフ」というオランダ人的な名前がわりとネックになっているのかもなぁと思ったりもします。ともかく48歳で急死してしまったこのオランダの革新者の影響は、バウハウスとともに今もいろいろなところで脈々と受け継がれていると強く感じるのです。

Illustration: SANDER STUDIO

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『Theo Van Doesburg: A New Expression of Life, Art, and Technology』(Mercatorfonds)彼が手がけた作品や、関連するアートや建築、文学などから、ドゥースブルフがデ・ステイルに与えた貢献についてまとめた一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した新刊『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を4月に出版したばかり。