Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/柴田元幸 vol.2May 08, 2020

May.07 – May.14, 2020

Saturday Morning

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Title.
When You’re Smiling
Artist.
Billie Holiday
 夜と言えばジャズ、と先週書いたが、では朝から聞きたいジャズには何があるだろうか。MJQの「朝日のようにさわやかに」などはほんとにさわやかでいいのだが、やっぱりこれも「タイトルで決めてないか」と言われそうなので……ビリー・ホリデイがどこか翳りを保ちつつ明るく歌う“When You’re Smiling (The Whole World Smiles With You)”(邦題「君微笑めば」——直訳すると「あなたが微笑んでいれば世界じゅうが一緒に微笑む」)はどうか。前半のビリーのあたたかい歌声で半分目覚め、後半のレスター・ヤングの怒濤のテナーサックスでしっかり目覚める、という目覚まし時計的な漸進性もある。
アルバム『The Golden Years』収録。

Sunday Night

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Title.
There Is No Greater Love
Artist.
Billie Holiday
 夜と言えばジャズ、で、眠りにつなげるとなると子守唄、ならば「バードランドの子守唄」……とこれまた「タイトル決め」なので避け、発想を変えて「ビリー・ホリデイに子守唄を——無伴奏で——歌ってもらえるとしたら何を歌ってもらいたいか」を考えると……“There Is No Greater Love”(「ノー・グレイター・ラブ」)を希望する。「これ以上/大きな愛はない/君を想う/この誠の心ほど……」。大学の翻訳の授業でこの曲を取り上げたら、ある学生はここに和歌の心を見出して「我を恋ふ君が心の深きより/そをいつはりと我やいふべき」と訳したのだった。「我と君が逆じゃないの」とか野暮なこと言わないでくださいね。
アルバム『The Complete Carnegie Hall Performances』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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アメリカ文学翻訳者 柴田 元幸

アメリカ文学翻訳者、東京大学名誉教授。ポール・オースター、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベック、スティーヴン・ミルハウザー、スティーヴ・エリクソンなど、現代アメリカ文学を数多く翻訳。最近の訳書にエリック・マコーマック『雲』(東京創元社)、編著書に『「ハックルベリー・フィンの冒けん」をめぐる冒けん』(研究社)など。文芸誌『MONKEY』責任編集。2017年、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。

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