長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子。
vol.1 レモンの花とフェンネルのヴィクトリアケーキHerbal Sweets / April 22, 2020
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。毎日のお茶の時間がいっそう楽しくなる、季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第1回は「レモンの花とフェンネルのヴィクトリアケーキ」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「レモンの花とフェンネルのヴィクトリアケーキ」

ハーブに導かれてお菓子を作る悦び。
ハーブに導かれてお菓子を作りたくなる。無農薬でハーブを生産する高知県の「まるふく農園」から届いた季節のハーブは、フレッシュなフェンネルとレモンの花。香りを嗅いだり、葉に触れたりしているうちに、浮かんできたのはヴィクトリアケーキでした。19世紀に君臨したヴィクトリア女王が好んで食していたことから名付けられたこのケーキは、小麦粉、バター、砂糖、卵を同量ずつ使うようなシンプルな作り方。「お菓子作りは初めて」という人でも挑戦しやすいスタンダードなケーキです。
パウンドケーキはいわゆる定番のレシピからアレンジし、しっとり柔らかい口当たりに。砂糖は少なめにする代わりに蜂蜜をひと匙。焼きあがったら真ん中でスライスして、フェンネルと相性のよいマーマレードのジャムを塗ります。その上に、刻んだフェンネルを混ぜた生クリームも塗り、残り半分の生地でサンド。
“みんなで楽しむお茶の時間”を想像しながら、お菓子の魅力を引き立ててくれる19世紀のフランスアンティークの器に盛り付け、見た目も可愛らしく。仕上げは、ケーキの頭に楚々としたレモンの花を飾って華やかなムードに。
焼きあがったばかりのヴィクトリアケーキのふわふわとしたやさしい食感に思わず笑みがこぼれてしまいます。マーマレードの爽やかな甘味と酸味、フェンネルの甘味と苦味を感じるクリームが口の中で複層的に絡み合い、幸せな余韻が続きます。翌日にはケーキがしっとりとした質感になり、味の変化が感じられるのも楽しみのひとつ。
温かい紅茶にドライレモンとレモンの花を一緒に浮かべると、ジャスミンのような甘い香りと柑橘のさわやかな香りが漂います。お菓子をいただきながら、ほっとひと息つくお茶の時間。日々の生活のささやかな潤いになってくれるはずです。

セリ科の多年草。原産地はアジアと地中海地方。古代ギリシャ・ローマ時代から食用や薬用として広く利用されてきたハーブは、葉や種、茎や根などを利用することができます。しなやかな茎から伸びる細やかな葉は、すっとした香りと甘さとほんのりとした苦味が特徴。胃腸のトラブルを和らげたり、体を温める作用があるといわれています。余ったら、スープの具材にするのもおすすめです。
右/レモンの花
レモンの木に咲く楚々とした白い花は、ジャスミンのような甘い芳香で、不安定な感情を解放する作用も期待できます。レモンの果汁の酸味や皮に多く含まれる香りの成分のリモネンは交感神経を刺激すると言われており、体内時計をリセットするのにもおすすめです。花は砂糖漬けやお茶に浮かべてみると気分もアップ。スペインの南部では、葉っぱに生地をつけて揚げドーナツのような郷土菓子を作る文化があります。
レシピ
12cmセルクル1台分
・バター90g
・塩ひとつまみ
・きび砂糖70g
・全卵80g
・薄力粉80g
・フェンネルパウダーふたつまみ
・ベーキングパウダー1g
・豆乳5g
・蜂蜜5g
サンド用
・市販のマーマレード 生地のサイズ分
・生クリーム80g
・きび砂糖3g
・フレッシュフェンネル適量
デコレーション用
・粉糖 少々
・レモンの花 2枚
How to cook

photo: Hiroko Matsubara edit & text : Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:le trot 他

<プロフィール>
菓子監修 長田佳子〈foodremedies〉
菓子研究家。レストラン、パティスリーなどでの修業を経て、YAECAフード部門「PLAIN BAKERY」でメニュー開発、お菓子の製造を担う。2015年に独立。〈foodremedies〉という屋号でハーブやスパイスなどを使ったまるでアロマが広がるような、体に素直に響くお菓子を研究している。著書に『foodremediesのお菓子』(地球丸)、『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)などがある。