花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
椿を模した「こころ葉」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.57September 22, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
椿を模した「こころ葉」。
古事記や日本書紀にもその名があり、万葉集にも歌われた椿は、日本古来の花木として古より愛されてきた。『龍安寺』の日本最古と伝わる侘助椿をはじめ、京都には椿の名所も数多い。
椿寺とも呼ばれる『地蔵院』には豊臣秀吉が寄進した五色八重散椿がある。白に近い色から赤に近い色、混色と一本の木に様々な色の花が咲き、花びらが一枚ずつ落ちるのも特徴の名木。
境内には100種ほどの椿があり、花が見頃の3月下旬から4月上旬にかけ特別公開されるのが『霊鑑寺』。色や形もとりどりの花が咲く様子はもちろん、緑鮮やかな苔とその上に落ちた花とのコントラストもまた、見ごたえがある。
『みたて』春のあしらいは、ぽとりと落ちてなお可憐な椿を染紙の花で表現したもの。かつて平安時代には贈り物に金銀糸や色糸で作った松や梅を添えたり、紙の花を頭に飾る風習があった。その 心を込めた造花は心葉と呼ばれ、こころ葉はその名に由来する。花びらの赤と花芯の黄、穏やかな色の染紙は『染司 よしおか』による草木染の和紙。椿の上には艶やかな葉のついた枝を吊り下げることで、自然にある様を写し取った。部屋の中にあってもなお、初春の景色を思わせる仕立てとなっているのだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2020年5月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。