花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
秋を告げる「葛の裏風」。Vol.28 / January 13, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
秋を告げる「葛の裏風」。
萩、桔梗、葛、藤袴、女郎花(おみなえし)、薄(すすき)、撫子(なでしこ)。七草粥で味わう春の七草とは違って、可憐な花を楽しむ秋の七草。その由来は古く奈良時代の歌人・山上憶良が詠んだ「秋の野に咲きたる花を指(および)折りかき数ふれば七種(ななくさ)の花」「萩の花 尾花(=薄) 葛花瞿麦(なでしこ)の花 女郎花また藤袴 朝貌(あさがほ=桔梗)の花」の2首による。万葉集に収められたこの歌は、秋の野の景色をしのばせるものとなっている。
その七草のひとつ、葛は葉の裏に毛があり白く見えるのが特徴。吹く風にひらりと裏返って、緑の葉の合間に白が見えると、まるで風を目で見るようにも思える。「葛の裏風」とは秋の風がもたらすそんな様子を表した歌詞だ。新古今和歌集に収められている、大伴家持が詠んだ「神奈備の御室の山の葛かづら裏吹き返す秋は来にけり」の歌
にもその情景が詠まれている。
秋の彼岸に供えるきな粉のおはぎに、裏を見せた葛の葉を添えたのが「葛の裏風」。表の葉も共に飾り、裏の白さを印象づけた。料理や菓子に葉を添えて、季節をさりげなく伝えてくれるあしらいは、生けるのとはまた違う植物の魅力を感じさせてくれるもの。つや消しの漆の黒さも葉の緑を際立たせる。静かな佇まいに、ふわりと吹く風を感じさせる秋のあしらいだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2017年10月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。