花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
「山紫陽花のあしらい」Vol.26 / December 30, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
「山紫陽花のあしらい」
6月に入れば梅雨もさかり。それと同時に紫陽花が咲き誇り、雨の憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれる。京都では三千院や藤森神社、善峯寺、三室戸寺など紫陽花の寺として知られる名所はもちろん、柳馬場あたりの御池通や高瀬川沿いなど街路樹としても街のあちらこちらに植えられていて、梅雨の季節の楽しみとなっているのだ。
大きな花が主張する西洋紫陽花と違って、小さな花の周りに装飾花が開いて咲く山紫陽花は可憐さもひときわ。京都でも野山に数多く見て楽しむことができる。その山紫陽花の大きな株を、古い籠にすっと収めたのが『みたて』の紫陽花を使ったあしらい。日用の道具として使い込まれた籠の焦げ茶と、花の薄紫、たっぷりの葉の緑のコントラストが美しく、極めてシンプルながら山紫陽花の生命力を感じさせてくれる。後ろに置かれた草花も、初夏ならではの生き生きした姿。まるで野山を歩いてふと目に飛び込んでくる山紫陽花のように、野趣を感じさせる組み合わせとなっている。
鎌倉時代に詠まれた和歌に「これほどと人は思はじ川かみに 咲きつづきたるあぢさゐの花」というものがある。人里離れた川上に咲く紫陽花の景色を詠んだ一首に、今も昔も変わらないはっとさせる紫陽花の姿を見るようだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2017年8月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。