花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
山を愛でる「初春のしつらえ」。Vol.22 / December 02, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
山を愛でる「初春のしつらえ」。
たらの芽、独活(うど)、わらび、ぜんまい。錦市場に山菜が並び、京料理にも使われるようになると、寒い冬もそろそろ終わり。春の息吹を野山から運び伝えてくれる山菜は、春の使者として多くの人の心を弾ませる存在だ。
奈良時代の万葉集には「明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ」と山部赤人が、平安時代には光孝天皇が百人一首にもある「君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ」と、鎌倉時代の歌人・藤原為家も「里人も千代の古道幾かへり 春の嵯峨野の若菜つむらん」と詠んだ。奈良・平安・鎌倉と時代を超え、まだ雪がちらつく日であっても春菜・若菜=春に芽生える食用の野草は、春を告げるものとして欠かせなかったと思わせる。
ガラスの器の中に苔むした杉の皮を沈めて水を張り、蕗の薹とこごみを生けた「初春のしつらえ」。野山の水辺や木の朽ちた部分には、山菜が多く育つことからイメージを膨らませ、植物のためのアクアリウムといった姿に仕立てた。ガラスにそっと閉じ込められた春の野山は、芽吹きの瞬間を切り取ったように瑞々しい。敷き藁の中に花咲く球根をしのばせたものとともに〈みたて〉初春のあしらいの定番となっている。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2017年4月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。