真似をしたくなる、サンドイッチ

レシピをこっそり公開! 正月に作れるパリ『シャンスー』のローストビーフサンドイッチ。January 04, 2025

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No48となる今回は、本誌No134に登場した『シャンスー』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

毎回恒例、川村さんによるスケッチからスタート。今回は、お店のレシピを特別に教えちゃいます。川村明子 サンドイッチ スケッチ
毎回恒例、川村さんによるスケッチからスタート。今回は、お店のレシピを特別に教えちゃいます。

実家では、お正月にローストビーフを焼く。

数年前までは、毎年恒例で1月3日に来客があったので、その準備で2日に大きな牛塊肉を2本、時には3本、母がオーブンで焼いていた。子どもの頃は、2日の夕方になると漂ってくる匂いに誘われて台所に行き、焼き加減を確認する母から、端っこのほうをちょっと切ってもらって、お醤油をちょんちょんとつけて味見するのが大好きだった。私が渡仏して料理学校へ行ってからは、帰国して年末年始を実家で過ごすときは、肉汁を活用してソースを作るようになった。
10年くらい前からだろうか、3が日が過ぎても焼いた肉が残っていると、うす〜くスライスして、母が手毬ずしを作ってくれるようになり、これがまたおいしくて、むしろそれを楽しみにローストビーフを多めに仕込んでほしいと思うくらいだった。そんなふうにローストビーフは、お正月に食べるお決まりの一品として私の中には存在している。

パリで唯一惹かれた、“日曜日の”ローストビーフ。

だから、実家のほうが絶対においしい、という気持ちが強くて、どこかの店で見かけてもあまり注文しようとは思わない。ここ数年で記憶にあるのは、1軒だけだ。その店で食べた理由は、メニューに“日曜日の”という枕詞がついていたからだった。聞けば、シェフの実家で日曜に頻繁に登場する料理の一つがローストビーフで、店を始めるにあたり「あれは絶対にメニューに加えたほうがいい」という兄弟からの助言があったらしい。そのストーリーにもまた惹かれて、その店のローストビーフは何度か食べた。
料理としてメニューに掲げられているとそこまで食指が動かないのだけれど、これが、サンドイッチだと俄然興味が湧く。母が手毬ずしを作ってくれたように、残りもので拵える副産物のアイデアに出合えるのではないかと思って。

サンドイッチ 川村明子 シャンスーのローストビーフサンドイッチ

私が『シャンスー』のローストビーフサンドに惹かれる3つの理由。

最新号の「サンドイッチ調査隊」で紹介した『シャンスー』のローストビーフサンドは、いくつかの点にアンテナがピピっと反応した。まず、バゲットで作るサンドイッチであること。この店にはやはり牛肉が具となるパストラミサンドがあって、こちらはパン・ド・ミで作られ、温かい状態で提供される。対して、ローストビーフは、冷たいサンドイッチだ。2つ目に、売り切れる時間が驚くほど早い。パリは12時からランチタイムを取る人はそれほど多くなく、たいていの店が混むのは12時半を過ぎてからだ。なのに、12時半過ぎに行くと、もうローストビーフサンドはなくなっていることが何度も重なり、「これ狙いで来る人が私以外にも、たくさんいるんだ!」と争奪戦に参戦する意欲を掻き立てられた。そして3つ目は、11区にある『シャンスー』1号店ではこのサンドイッチを作っておらず、2号店のスペシャルであること。

その秘訣はソースにあり。

ローストビーフのスライスと、レタスとソース。でもコレがどうもクセになる味で、その秘密はソースだと思った。サンドイッチには2種類のソースがかかっている。ひとつは、焼き汁に赤ワインを加えて煮詰め、生クリームを加えて仕上げたもの。もうひとつは、ソース・グリビッシュ。日本では馴染みのない名前かと思うが、味は親しみやすい。そして、家でも難なく作れる。そこで、『シャンスー』のレシピを聞いてきました!
クラシックな作り方は、ゆで卵の黄身を裏漉しして、マスタードと酢を加え混ぜ合わせてから、オイルを少しずつ注ぎ、攪拌する、いわば、生卵ではなく茹で卵で作るマヨネーズが元となる。が、『シャンスー』ではふつうにマヨネーズを作って、そこに茹で卵を加えて作る手法を撮っているから、家で実現する場合には、市販のマヨネーズを利用してもOK。

これは店で作る分量なので、下記の材料の3倍です。.サンドイッチ 川村明子
これは店で作る分量なので、下記の材料の3倍!
ピクルスだけ、他の材料よりも大きめの微塵切りに。川村明子
ピクルスだけ、他の材料よりも大きめの微塵切りに。
ざっくり混ぜる。それだけです。ローストビーフにだけでなく他にもいろいろ使えます。川村明子 サンドイッチ
ざっくり混ぜる。それだけです。ローストビーフにだけでなく他にもいろいろ使えます。

[材料]
マヨネーズ(アイオリ風) 325g
ゆで卵 1個
コルニション(小キュウリのピクルス) 50g
ケッパー 20g
ディル 45g
チャービル 30g
塩コショウ 適宜

*ゆで卵一つを使い切る分量にしましたが、それでもたっぷり目です。この半量でも、1/5の量でも、作りやすい分量でぜひ作ってください。

材料は全てみじん切りにし、マヨネーズに加えて混ぜ合わせるだけ。ポイントは、ピクルス。酸味の効いたタイプではなく、甘酸っぱいものを選び(小粒ではなく少し太めのピクルス)、歯応えを残すように他の材料よりも若干大きめに刻むこと。アイオリ風のマヨネーズは、マヨネーズに潰したニンニクを加えたものです。

このソース、なんなら、ローストビーフなしで、バゲットに塗るだけでも楽しめちゃいます。お正月にぜひお試しを。

『Chanceux』

63 rue Galande 75005 ☎︎なし 10:00〜17:00 (土日月〜18:00) 無休 ローストビーフサンドは12時から販売。イートイン可。
63 rue Galande 75005 ☎︎なし 10:00〜17:00(土日月〜18:00)無休 ローストビーフサンドは12時から販売。イートイン可。


文筆家 川村 明子

パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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