真似をしたくなる、サンドイッチ
リンゴのピクルスが隠れていた!プルド・ポークのサンドイッチ。真似をしたくなる、サンドイッチ Vol.3April 21, 2021
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届けします。
今回は、本誌No89に登場した『コロロヴァ』で、惜しくも掲載できなかったサンドイッチのお話を。
"料理サンドイッチ”の出現。
すごい時代になったな、と思う。サンドイッチの概念がここまで変化するとは予想だにしなかった。ほんの2年前は、どこのパン屋のバゲットを使い、ハムはどこどこから仕入れ、チーズは何ヶ月熟成で、なんて話をしていたのだ。それがいつしか”料理サンドイッチ”なるものが台頭し始め、さらには店で自家製のパンを焼くことが珍しくないところまで来てしまった。そんな事態を加速させる社会的背景があったことは確かだが、それにしても、である。軽食を表す言葉、「カス・クルート(casse-croûte)」を象徴するクラシックなサンドイッチも根強い一方で、レストランで食事を楽しめない今、ひと皿の料理を食べたかのような満足感を得る、手間をかけ工夫を凝らしたサンドイッチの出現が引きも切らない。
パティスリーだって、
サンドイッチを作るのだ。
サンドイッチを作るのだ。
前回この連載に登場した『モコロコ』は、パティシエールの奥様のレシピで食パンやバンを焼いている。そして今回、本誌No89でも紹介した『コロロヴァ』はパティスリーで、以前からブリオッシュなどヴィエノワズリーは商品として作っていた。
パティスリーがサンドイッチを作ることの強みは、何と言っても、そこだろう。自分たちの作りたいサンドイッチに合うパンを探す必要はなく、もともと自分たちで作っているものを具材に合わせて調整する技術を持っていること。
本誌に掲載した、バターナッツかぼちゃのフライを挟んだサンドイッチは、ピーナッツが潜むサクッサクの衣に包まれたバターナッツが何ともジューシーで、衣の熱で溶けたヤギ乳のチーズの塩気がキリッとアクセントを放っていた。
そして、几帳面に重ねられた水っぽさを感じさせないサラダほうれん草がぎゅっと集中した青々しさで全体を引き締める。最後に不意打ちで現れた洋梨の、艶やかで爽やかな甘みと口どけ感に儚さまで感じるという、そのバランスの取れた味と食感の構成はまさにアントルメ(=ケーキ)で、他ではどこでも食べたことのない味だった。
実はもう一つ、具材としては他店でも見ることのあるプルド・ポークのサンドイッチもあったのだ。これには、長方形に成形したパン・ブリオッシェ(食パン生地が少しブリオッシュ寄りになったパン)を使っているのだが、これがまたもちもちしていてとても美味しい。それに、プルド・ポークと言ったら、濃厚な味付けが肉の中に浸み込んでいて、噛むごとにジュワッと出てくる液に、早々と満腹感を覚えることが多いのに、全くくどさを感じなかった。ミックスしたスパイスで肉をマリネしてからじっくり火を通すのではなく、焼き目をつけてから野菜のブイヨンで5〜6時間じっくり煮込んでいるそうで、それでだろうか。さっぱりしている。バーベキューソースの代わりとなる自家製ソースには、リンゴのコンポートと水を足さずに作るキャラメルを加えて、とろみを出しているというが、こちらもそのさじ加減はお手のものだろう。そしてこのサンドイッチも、いちばん下にリンゴのピクルスが隠れていた。この甘酸っぱさがまた抜群に効いており、一度リンゴピクルス入りを食べてしまったら、もう元には戻れない、舌にその存在を刻み込む隠し球だった。
週末だけ営業をしていたのが、4月に入ってからは、水〜金曜日もオープンするようになり、新たにスコッチエッグもメニューに加わっていた。きっと衣にまた何か隠し味が仕込まれているのではないかなぁ。近々買いに行こうと思っている。