真似をしたくなる、サンドイッチ
スパイスとハーブの風味が弾ける、ローストカリフラワーのベジサンド。真似をしたくなる、サンドイッチ Vol.1March 01, 2021
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届けします。
初回は、本誌No87に登場した『ペニー・レイン』で、惜しくも掲載できなかったサンドイッチのお話を。
ますます、サンドイッチに魅せられて。
『&Premium』本誌で、パリ中のサンドイッチを紹介する連載「パリのサンドイッチ調査隊」をはじめて早2年。パリのサンドイッチ事情は、当初、思いもしていなかった展開を見せ、それに比例して、私のサンドイッチへの探究心もずんずんと奥地へ足を踏み入れている。
最初に作った取材候補店リストには、ブーランジュリーも数軒挙げていた。それが、連載開始と呼応するかのように一軒また一軒とサンドイッチ専門店が出現し、そのほとんどが注文を受けてから作る店で、さらには、店主がもともと料理人だったりする。メニューに名を連ねるサンドイッチは、定番ものだけではない。そうなると、あれもこれもと試したい。
でも、連載で紹介できるのは一つだけ。その一つを選ぶために、えらく悩む。具材のバリエーションが豊かで、文字だけのメモじゃ抜け落ちるところが出てくるから、食べながらスケッチする。そのスケッチを持って取材に行くと、「ここにこんな手がかけられていたんだ!」と、シェフのひと手間を新たに知ることになり、さらに悩ましい。最終的に選んだ一つは、必ずしも、美味しい!と軍配が上がった方ではない。こっちをまず食べてみて!と勧めたいサンドイッチが「来週でメニューから消える」と言われたら、私は、もう一方を記事にする。そして心の内で、“いやぁ、でもなぁ、これも食べて欲しいよなぁ…”と誌面には載らないサンドイッチへの未練を呟くのだ。そんな諦めきれぬ思いや、サンドイッチもだけれど店主が本当に感じが良くてそれさえも味、なんて思う店で交わした会話だとか、本誌では書ききれなかったエピソードを、ここで綴りたいと思います。
「カリフラワーのベジサンド」
本誌No87では、2020年夏に10区にオープンしたサンドイッチ屋さん「ペニー・レイン」のシーフードサンドを紹介。でも実はもう一つ候補がいたのだ。ローストしたカリフラワーが存在感を放つベジサンド。食べると、見た目からは計り知れない味が飛び出してきた。主役の脇を固める布陣には、ニンジンとセロリ、フェンネルの甘みあるピクルスに、小さなキュウリのピクルスはキリッと甘みがなく、火を通していない黄色味がかったカリフラワーもいてオリエンタルな香りがした。
聞けば、カレーパウダーとフェヌグリークにターメリックを加えピクルスにしているらしい。そう、ピクルスだけで3種類。そこにパセリ、ディル、ミント、クレソンが気前よく押し込まれ、奥にはタヒニ(ねりごま)ソースとニンニククリームがたっぷり。緑の甘唐辛子も潜んでいる。
フレッシュな食感と酢の酸味、スパイスとハーブの風味が口の中で弾け、食べ進むたびに元気になるような気がした。3日と経たずリピートしたくなって、再訪し、今度はハドック入りのサンドイッチも買ってみた。これがまた、ひと口ごとに新たな味が顔を覗かせ、あれよあれよと食べ終えてしまった。困ったな、どっちにしよう。共通して言えることは、どちらもフォークが必要だった。具だくさんで、その一つ一つの味わいを確かめるように、奥に潜んだソースを絡めて食べたくなる。それと、細長いピタパンの役割。すべての具を受け止め器としての機能を持ちつつ、ちぎってソースにディップしながら食べるのも美味しくて、最後、ソースが染み込んだところは、丼の底に残ったタレの染み込んだごはんを思わせた。最後に味のついていないパンのかけらを残してしまうような事態には到底ならないサンドイッチ。
見るからに鮮やかなハーブは、注文が入ってからオイルとレモン、塩で軽く和えるらしい。他にもちょっと仕上げをする。だから、受け取りに少し待つ。そして本当は、作りたてをその場で食べるのがいちばんおいしい、と言われた。まだ一度も、イートインは叶っていない。できるようになる頃には、新しいメニューが登場しているのだろう。その日を楽しみに......。