真似をしたくなる、サンドイッチ
出合えるかは運しだい!? ブリオッシュが驚くほどもっちり。パリのワインバー『パッセリーナ』の塩味マリトッツォ。April 02, 2026
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No62となる今回は、本誌No149に登場した『パッセリーナ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

『パッセリーナ』はワインバーだ。
とても好きなイタリアンレストラン『パッセリーニ』が経営していて、そのすぐ向かいにあるので、これまでに何度か足を運んでいた。予約が必須のレストランに対し、ワインバーのこちらは予約を取らず、おまけに18時からオープンしているから、ティータイムに会うのが難しい友人と、お茶をするくらいの気軽さで「アペロしよう!」と待ち合わせをして、欲すれば、締めにはパスタも食べられる。最高だ。ふだんから、サンドイッチを含めパンの摂取量が多い私は、パスタを極力控えているので(大好きなのだけれど!)、バーのカウンターで、小ぶりな器で出されるパスタには抗えない魅力を感じている。もしかしたら実際は目の錯覚で、レストランのパスタ料理とほとんど量は変わらないのかもしれない、と毎度頭をよぎるのだが、あえてそこは追及していない。
そう、1月の終わりに出かけたときも、パスタが目当てだった。
年が明けてから4時半起きを始めた私の睡魔が襲ってくる前に、早めに解散しようと18時に待ち合わせをして、一番乗りで入店した。パスタだけは19時半から注文可能で、なぜかというとレストランのオープンが19時半で、パスタは向かいのレストランの厨房で作られて運ばれてくるからなのだが、つまり、18時から始めれば、まさに締めの時間にぴったりだ。

ところが、予定外のことが起こった。メニューに“schiacciata(スキアッチャータ)”という知らない言葉を見つけた。検索すると、トスカーナ地方のフォカッチャ。その言葉に続けて、ポルケッタと書かれていたから注文してみたら、サンドイッチになって出てきた。これが、とてもとてもおいしかった。1辺が10cmに満たないくらいに四角く切られたフレッシュなフォカッチャと、うすーくスライスされとろとろのポルケッタにチコーリアという、チコリ(菊)種の野菜の苦味の組み合わせは、昼間、仕事の合間の腹ごしらえに食べる味ではなくて、1日の終わり(そして週末の始まりでもあった)にぴったりだった。
「これは、ワインが欲しくなるねぇ」とこぼさずにはいられない、疲れをほぐすようなおいしさ。サイズがまたよかったのだ。形状はサンドイッチながら、これだけでおなかを満たすようには作られていない、他にも何皿か食べる想定で構成されたサンドイッチ。あまりに満足してしまって、結局、パスタを食べずに店をあとにした。
このポルケッタサンドが1週間経っても忘れられず。
取材依頼をして再訪すると、「今日はもうひとつサンドイッチを作れる」と言われた。それは、見てみたい。だいたい、この店ではサンドイッチ自体、メニューにあることが少ないのだから。運ばれてきた皿を見て、思わず「なにこれ〜!」と歓喜の声をあげた。なんて可愛いんだ! 塩味のマリトッツォだなんて。

通常、生クリームが詰められる箇所には、塩鱈のブランダード(ペースト状の鱈)が塗られている。上に盛られた鱒の卵がまた愛らしい。いくらだったらここまで可愛さを演出できないかもしれない。小粒さ具合の勝利に思えた。
見た目にノックアウトされていくら写真を撮ってもまだ撮りたい気がしたけれど、乾かないうちに食べなければ、とかじりつく。一人だったし押さえたが、今度は「ほぉ〜!」と驚きの声が出そうになった。意表を突かれた。ブリオッシュの生地はもちもちで、力強ささえ感じる弾力を持ち、濃い焼き色から連想するままに、表皮は厚めでバリッと香ばしい。ふわふわした印象が全くない。対照的に、ブランダードはしっとり、かつ、ふわっとさらっとしている。塩気も控えめで、ニンニクの主張もなく、オリーブオイルも全体をつなぐにとどめているのだろう、もったりしていない。至極食べやすい。私は、ブランダードを食べると胃がもたれてしまうことが結構ある。聞けば、ブランダードに加えるのが定番の、ニンニクを入れていないのだそうだ。
こんな食べ方があったか〜!と膝を打ちたい気分になった。このマリトッツォは、ブリオッシュとブランダードという主役それぞれが、一般的なイメージと逆転していると思った。ブリオッシュは硬派な印象で、ブランダードがとても優しい味だった。面白いなぁ。そうそう、鱒の卵は、その小粒さだけでなく、袋のぷちっとした歯応えでも存在感を発揮していた。
『Passerina』

文筆家 川村 明子












































