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山形といえば、海・山・夏! 写真と文:江本祐介 (ミュージシャン) #2August 12, 2025

友人のバンド、Hi,how are you?の原田晃行くんに誘われ、ライブをしに真夏の山形へ行くことになった。ものぐさな僕は当日に新幹線のチケットを上野駅で買ったが、3連休の初日ということもあり、席が取れずにデッキで立ったまま新幹線に揺られ山形へと向かった。新幹線の車両の調子が悪いらしく、何故か福島駅で乗り換えをすることに。駅に到着して1分後には次に乗る電車が発車するため、灼熱のホームを全力疾走し汗まみれで乗り継いだ。
ちょうど昼ぐらいに山形駅に到着し、車で迎えに来てくれた原田くんと合流。Tシャツ短パンにサンダル、持ち物はレコードバッグ1つと、あまりの僕の軽装っぷりを見て原田くんは笑っていた。たしかにこれから2泊3日する人間の格好ではない。山形に来たらどうしても行きたい場所があり、事前にリクエストしていたのでそのまま目的地を目指す。駅前では選挙の投票日前日ということもありデモ隊が歩いていた。
車を少し走らせると、まっすぐな道路の抜けに大きな山が見える。山も海もない町で育った僕は、いつまで経っても自然への憧れがあり、町の向こうでどんと構える山がちょっと見えるだけでもう嬉しくなってしまった。20分ほどで、最初の目的地である『エルワンミネタ』に到着。10代の時に特に大好きだった銀杏BOYSの峯田和伸さんの実家だ。

店先ではしゃぐ僕を見て原田くんが何枚も写真を撮ってくれた。ひんやり冷えた店内はなんてことはない町の電器屋で、これから発送されるであろう新品のエアコンが通路を埋めていた。レジ前にはささやかに、銀杏BOYSやゴーイング・ステディのグッズやフライヤーが展示してある。ちょうどお店に立っていた峯田さんの妹さんと原田くんは仲が良いようで、たくさん話をして帰り際には黄色くて可愛い扇風機の前で一緒に写真を撮った。20年越しの念願が叶った瞬間だった。
その日の夕方にはライブなので、一旦原田くんの家に行き、お茶を飲んだり雑談していたりしたらあっという間に開場時間が近づいていた。急いで車へ機材を積み込み、会場へと向かう。
今回の会場は、山形大学の目の前にある『ストリート・シャッフル』という昔ながらの喫茶店。ログハウスのような木張りの店内の壁にはたくさんの漫画があり、そのチョイスが良い。店主に聞いたら41年も続いてるお店とのこと。準備をしていたらあっという間に開演時間になり、ライブがスタート。今回は僕と原田くんのツーマンだったが、歌うだけのライブではなく、2人とも常に前に出て2時間ぶっ通しでお喋りしながら、合間で交互に歌うというヘンテコなライブをした。ステージもマイクもなんもないので、ホントにお客さんと喫茶店で一緒にお喋りするような感じで非常に楽しかった。
早めのスタートだったので明るいうちにライブも終わり、そのまま原田くんの友人らも連れて山形市内にある『前田家』というラーメン屋で晩ごはんを食べた。地元の人イチオシとあって、めちゃくちゃおいしかった。地方でご飯に行くならその土地の人におすすめを聞くのがいつだって間違いない。あっという間にラーメンを平らげてそのまま原田くん家に向かい、夜中までみんなでお菓子やアイスを食べながらわいわい「桃鉄(桃太郎電鉄)」をやった。ゲーム上でも最初の目的地が山形だったのには何か運命を感じた。

翌日8時に目覚めた僕らは支度をして真夏の日差しが照りつけるなか、車で海を目指した。道中で原田くんの恩師であり、僕も面識のある森さんが営む『のら珈琲』へ寄り道して朝ごはんを食べる。久々に飲んだ浅煎りのアイスコーヒーが猛烈においしかった。
店から出てまた車へと乗り込み、広い通りを走ると遠くに見える山にはまだ少し雪が残っていた。原田くんが言うには、海へ向かうにはあの山を越える必要があるとのこと。入道雲を眺めながらサザンを流して“カッコいいもの”縛りのしりとりをする。「ミイラ!」と言った時に、みんなそれはカッコいいと言ってたのがよかった。
山を越えて庄内というエリアに突入し、海がずいぶん近づいたが、牡蠣を食べたほうがいいという情報を得ていた僕らは途中にある『道の駅 鳥海 ふらっと』に寄り道して生牡蠣を食べた。海の近くに来たら生牡蠣を食べるに限る。特に下調べもしてなかったので、そこからすぐ近くの十里塚海水浴場へ向かう。売店や海の家などないものの、かなり綺麗で空いておりすぐに服を脱ぎ捨て海へ飛び込んだ。波は少し高いが水温は最高で、僕らははしゃいで泳いだり潜ったり浮かんだりして遊んだ。

ヘトヘトになるぐらいしっかり泳いだ後はお腹がペコペコで、なんでもいいから食べに行こうということで国道沿いの『COCO'S』へイン。そこで原田くんの友だちで米農家をやってる佐藤さんと合流。包み焼きハンバーグを食べながら何故かドラマ「北の国から」の話になり、見たことない僕はみんなから熱いプレゼンを受けた。
少しずつ夕暮れていく山を見ながら、みんなでお互いのおすすめの曲を流しながら家路を辿った。歳を重ねるとこういう風に好きな音楽をおすすめし合う機会は減っていくので、変わらずこうやって話せる友だちは貴重だ。家に着いた頃にはすっかり疲れ果てていた僕らは、帰り道に買った『吉野家』の牛丼をあっという間に平らげてすぐに寝てしまった。本当はこの日のうちに帰るつもりだったけどこれから新幹線に乗るなんて考えられなかった。
翌朝目覚めると朝ごはんが用意されており、むしゃむしゃ食べながら今日帰るまでにやることを考える。ちょうど山形美術館で「古代エジプト美術館展」をやってるというので、まずは支度をして近くの温泉へと向かい、昼前から風呂に入り、原田くんおすすめの『山形一寸亭』という蕎麦屋に向かう。朝ごはんをしっかり食べたのでお腹は全然空いていなかったが、目の前に現れた冷たい肉そばに少し手を付けたら余りのおいしさに一瞬で食べ切ってしまった。そのまま近くの美術館へ向かい、展示を観る。3連休の最終日だったが、たくさん人が来ていた。まさか山形に来てミイラ(かっこいい)を見るとは。

美術館を出て、山形駅まで送ってもらう。帰り際に原田くんらがパインサイダーや芋煮、米、キーホルダーなどお土産をいろいろ買ってくれた。改札で見送られ、また指定席を取れていなかった僕は新幹線のデッキから外の景色を眺めて東京へと帰っていった。
ミュージシャン 江本 祐介
