聖歌隊CANTUS主宰 太田 美帆


January 27, 2023 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/太田美帆 vol.4

January.27 – February.02, 2023

Saturday Morning

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Title.
Large Oak
Artist.
Keeley Forsyth
パティ・スミス、ピナ・バウシュ、オノ・ヨーコ……etc.憧れのアーティストは沢山浮かびますが、この人の音源とアートワークに触れたときも一発で痺れました(めちゃくちゃ好き!)。
イングランド北西部に位置する、グレーター・マンチェスター出身の女優であり音楽家のキーリー・フォーサイス。
サブスクリプションで偶然知ったアーティストです。お気に入りの一曲は「Large Oak」。ピアノが放つ三和音のループ、同じように繰り返す「A Large Oak, Descended」(大きな樫の木、降臨する)たったこれだけのフレーズ。その削ぎ落とされた音世界を賛美するようにストリングスのドローンは徐々に徐々に翼を広げ、その音色に呼応するように、歌声も高らかに天へ上がっていく。全篇を通して絡みついてくるアブストラクト・ノイズが、ただ美しいだけじゃない私たちの生きているこの世界を、丸ごと受け入れているような気さえしてくるのです。2分24秒の小作品。ざわめく心をスッと鎮めてくれます。
アルバム『Debris』収録。

Sunday Night

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Title.
Hodie (Gregorian Chant)
Artist.
CANTUS
「Hodie」(オディエ)はラテン語で「今日」を意味します。ヨーロッパ諸国の母体言語であるラテン語が発する“オディエ”という響きに、国も人種も宗教をも超えた美しさを私は感じるのです。
CANTUS(カントゥス)は私が主宰する女性聖歌隊です。ラテン語で「歌」という名を持ったこのグループ。メンバーは同じ児童合唱団のメンバーだった、幼馴染みたち。ただ、子供のとき、私たちは聖歌に魅了され、音楽を通してひとつになり、響きの中で自分の存在を透明にしていく行為を愉しみました。このアルバムは合唱で構成された教会音楽ではありますが、高尚な音楽として捉えてもらうより、「人は静けさの中に光を得る」そのことを作品から感じてもらうことが出来たら、これ以上の喜びはありません。
アルバム『Hodie』収録。




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January 20, 2023 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/太田美帆 vol.3

January.20 – January.26, 2023

Saturday Morning

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Title.
Brown Rice
Artist.
222
菓子研究家「foodremedies」主宰の長田佳子さんが営まれる山梨のアトリエ「SALT and CAKE」で、222こと森俊二さんのライブがあって、ひょいと遊びに行ったのをきっかけにこのアルバムの存在を知りました。まずジャケットが素敵だな、と。八ヶ岳山麓に小さな別荘があるのですが、いつも眺める山脈がこのジャケットと被って仕方ありませんでした。
すごく似ている(実際は写真家の渋谷ゆりさんが撮影された「ヨセミテ国立公園」)。
年明け、山を横目に控え目な音量で222を流し、朝食のミルクティーを作っていたら、静かでメランコリックなサウンドは、日常とゆっくり溶け合っていきました。ヴィーガンであり、サーファーでもあり、オーガニックなライフスタイルを送る森さん。本作『Song For Joni』2曲目に収録された「brown Rice」は、実際、彼が玄米を炊いているときの圧力鍋の音なんだとか。生活の軽やかなノイズを作品に仕立てることが出来るのは、音楽の魅力の一つであり、才能を感じる瞬間でもあります。
アルバム『Song For Joni』収録。

Sunday Night

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Title.
ひかりのにおい
Artist.
太田美帆・Paniyolo
人生で一番辛かった時期、私を救ってくれたのは大切な友人でもあるクラシックギタリストPaniyoloの音でした。一身上の理由で子ども達と身を隠していた頃、移動の車で終始聴いていたのは彼の作品群。
「大丈夫。きっと日常は戻ってきますよ」。やんわり諭してくれるような、黙って隣にいてくれるような。自分の置かれている極端な状況と、彼の奏でる一貫して穏やかなサウンドの温度差に耐えきれず、何度も声をあげて泣きました。そんなPaniyoloと作る事が出来たアルバムがこの『空と花』。「ひかりのにおい」は私が癌に罹患という、またしても人生のターニングポイントに生まれた作品。「何の変哲も無い日々こそ宝物である」。そんな気持ちを込めて、歌い上げるというより、隣に座って呟いているといいう方がしっくりくるかもしれません。夜空に輝く星たちも、野に咲く花たちも、私達は同じ宇宙の光。共に瞬いて生きています。
アルバム『空と花』収録。




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January 13, 2023 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/太田美帆 vol.2

January.13 – January.19, 2023

Saturday Morning

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Title.
Particles
Artist.
Ólafur Arnalds
「ポストクラシカル」というジャンルが定着して久しいですけど、その中でも個人的にグッと来ているアーティストの一人が1986年生まれアイスランド出身のオーラヴル・アルナルズ。調べたら2008年にはシガー・ロスのツアーに同行しているみたいですね。そりゃ好きなワケだ。オーラヴルにまつわるエピソードと言えば、極深煎り焙煎が人気の珈琲屋『周波数』のBGMで流れて来て、思わず店主の小原瑠偉君にハイタッチしたこと。
鼻ピアスがチャーミングな女性ボーカリスト、ナッナ・ブリンディスをフィーチャーしたこの曲。ストリングス、そして淡々と続くピアノのループ。決して華やかじゃない。でも心を捉えて離さない。このアルバム全体の世界観が好きですが、推しは「Particles」と、次に収録されている「Doria」。この2曲のターンが来ると心の中で(うぉおお)と喜びの雄叫びを上げます。MVも素晴らしいので、ぜひモーニングコーヒー片手にお愉しみ下さい。
アルバム『Island Songs』収録。

Sunday Night

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Title.
Respite
Artist.
Goldmund
アップル、フェイスブック、グーグルなど企業CM楽曲を制作しながら、様々な名義を使い分けジャンルの異なる作品を発表しているキース・ケニフ。ゴールドムンド名義のリリースではポストクラシカルの香りが多く漂います。どうも私はゴールドムンドサウンドが好きらしい。
定期演奏会を主催して下さっている音楽小ホール『白読』で、演奏会後のBGMとしてゴールドムンドがかかると、私は決まって主の麗子さんに「これ誰ですか?」と尋ねていることが判明しました。麗子さんはその都度笑いながら「美帆さん。ですから、以前にもお伝えしたようにゴールドムンドです」と答えてくれる。『白読』での定演は日曜日の夜に行っていますが、ここには世界最高峰であるC.ベヒシュタインのアップライトピアノがあり、このピアノを奏でている時間は私にとって「Respite」という曲名と同じく「息抜き」とか「束の間の解放」と言える時間。ゴールドムンドの「Respite」は、ピアノとストリングスで構成された3分間のインストゥルメンタル。鍵盤から手を離した瞬間に生まれるハンマーの打弦音も心地良くお勧めです。
アルバム『The Time It Takes』収録。




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January 06, 2023 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/太田美帆 vol.1

January.06 – January.12, 2023

Saturday Morning

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Title.
Viderunt omnes
Artist.
The Hilliard Ensemble
気になって朝刊のラジオ欄を広げると、やっぱり続いてました! NHK-FM本放送開始以前から放送されている早朝のラジオ長寿番組「古楽の楽しみ」。小学生の頃、私の起床タイムといえばコレ(起きたくない…)。布団の中でゴロゴロしながらラジオから流れる教会音楽をバックにまどろむ時間が好きで好きで。特に、寒い冬の朝の光と古楽。完全に溶けあいます。
新しい年の始まりにオススメしたいのは、ノートル・ダム楽派の代表的な作曲家ペロタンの合唱作品集。作風を一言で言えばミニマル。スティーヴ・ライヒに多大な影響を与えたと言われている作曲家です。アルバムの一曲目、「Viderunt omnes」は好きすぎて4声全部を暗譜し多重録音する様を披露するインスタレーションを敢行したほど。初期ポリフォニーの毅然とした美しさは、数式の美しさにも似ているかもしれません。
アルバム『Perotin』収録。

Sunday Night

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Title.
Spiegel im Spiegel(version for violin and piano)
Artist.
Arvo Pärt
小学生で古楽に出逢い、大学生でブライアン・イーノに目覚め、20代半ば、アルヴォ・ペルトに衝撃を受けました。1935年エストニア生まれの作曲家。ルネサンス音楽、バッハ以前の古楽を研究した作曲家。はい、当然好きです。実際夕食のお供に毎晩かけていた時期があります。「Spiegel im Spiegel(鏡の中の鏡)」は、1曲10分近くある長尺曲ですが、そのゆったりした時間の流れに身を委ねると、慌ただしかった気持ちが少しずつ整っていく感じ。自分の演奏会のプログラムにも度々取り入れています。「沈黙の次に美しい音」という〈ECM〉レーベルのコンセプトを、これぞまさに! と表した作品。
アルバム『Alina』収録。




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聖歌隊CANTUS主宰 太田 美帆

東京都出身。8歳で出逢った「聖歌」に心震わせ、音楽家を志す。福岡のギャラリー、うつしきより『共鳴』『嬉々』2枚のアルバムをリリースするが、甲状腺癌により一時的に声を失う。自己流ボイストレーニングを経て復帰。ピアノの小松陽子、ヴァイオリンの根本理恵と共にクラシック音楽ユニット’adagio’もスタート。ギタリストPaniyoloとも活動中。一男一女のシングルマザー。クリスチャン。

instagram.com/ura.cantus

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