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私も写真集を読んでみたい! 『TOKYO and my Daughter / ホンマタカシ』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #4July 25, 2025

私も写真集を読んでみたい!『TOKYO and my Daughter / ホンマタカシ』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #4
私も写真集を読んでみたい!『TOKYO and my Daughter / ホンマタカシ』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #4
私も写真集を読んでみたい!『TOKYO and my Daughter / ホンマタカシ』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #4
私も写真集を読んでみたい!『TOKYO and my Daughter / ホンマタカシ』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #4

寂しい話、悲しい話、感動する話。そうしたものは、何を言いたいかがわかりやすいので、読みやすいですよね。そこに母、父、妻、夫、彼女に、彼氏、子どもなど、関係性のある人だったら、より何を写真集の中で語りたいのかわかりやすいのかもしれません。

そんな中で、読むと面白いのはホンマタカシさんの『TOKYO and my Daughter』。

東京と私の娘と記載されたその一冊には、幼稚園バックを肩にかけたボブの髪型が印象的な女の子がカメラのファインダーを覗いていたり、車の上から鼻から上だけ出してこちらを見つめていたり、その狭間でシャンプー後なのかびしょ濡れになった犬の姿が映し出されたりしています。美術館かな? と思わせる白いキューブのような邸宅、光が差し込む大きな窓際にCDやレコード、画集などといった様々なカルチャーが漂うインテリア、そしてビルの隙間を縫うように続く首都高という東京の風景も。

2025年になった現代のSNSに溢れているような「日常」や「暮らし」、「憧れ」のような写真ですが、刊行年は2006年と約20年前。今見ても新鮮で、時代を感じさせるわけでもなく、時間の流れに恐怖を覚えます。だって、この写っている女の子がすでに成人しているから。このような「子ども」と「暮らし」を被写体にした「豊かさ」の写真は20年も前から発表されていたのです。

ですがこの写真には「実は.....」が隠されており、その答えは裏表紙の写真をよく観察すればわかります。同じ服を着た中年男性と女の子。中の光が消える程、長い時間、開けられている冷蔵庫。この写真だけ作り込まれているのがわかります。そして、その中年男性は.....。

ぜひ一度、本書を手にとって表紙から裏表紙までじっくり見ていただき、何の話なのか? どのような写真の挑戦なのか? 読んでいただきたいと思います。

例えば、そもそも作家さんと被写体との関係性は必要なのか。写真は「写す真実」と書くけれど、すべて真実なのか。

写真は嘘をつける。これは1950年代末からドイツの給水塔を撮影して、1960~70年代に高く評価されたベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の作品から言われています。私が思うに、ホンマタカシさんほど、「写真」という200年以上続く歴史の中で生まれたあらゆる定義、技法、表現を全方位的に理解し、楽しんでいる写真家さんはいないのではないでしょうか。

理解をしているからこそ、ひっくり返せる。理解をしているからこそ、別の角度から見ることができると言えばいいのか。見る人も撮る人も巻き込んで「写真とは?」「写真の◯◯について」と、毎度考えるきっかけになる作品を残しています。

ただ目の前にある世界の美しさを切り取るだけではなく、写真そのものに対してのアプローチも忘れないのが写真家さんたちの面白い部分です。

ぜひ、写真家さんたちが写真だけで巻き起こす世界をお楽しみください。


『book obscura』店主 黒﨑 由衣

book obscura_logo案
くろさき・ゆい/東京・吉祥寺の井の頭にて写真集専門書店『book obscura (ブックオブスキュラ)』を営む。写真集の古書・新刊を取り扱い、不定期で写真展や写真史のワークショップを開催。20年以上、写真史・写真集史を研究している。

instagram.com/bookobscura

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