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Book

Shihen 本と音楽 紙片


選・文/本と音楽 紙片 / March 14, 2019 本屋が届けるベターライフブックス。『さよならのあとで』ヘンリー・スコット・ホランド 著 高橋和枝 絵(夏葉社)

閉店時間をすこし過ぎた頃、「まだだいじょうぶですか?」と急ぎ足で女性が来られた。早足で店内をまわり、レジに持ってきたのは『さよならのあとで』だった。
この本は大切な人との決別のあと、残された方へそっと寄り添い、ささやかに慈しむ小さな声の本。
いま、このひとに必要な本だったのだなと思い、通常のやり取りをし、本を手渡す。わかつことの出来ない悲しみに、僕はかける言葉を持たない。本を手渡す。
本にしかできないことがある。僕はただ、この本を手渡し、見送る。
たよりない毎日に大げさなことは起こらないけれど、この本を手渡し見送ることは、本屋にできる特別なことかもしれない。


選・文/本と音楽 紙片 / March 07, 2019 本屋が届けるベターライフブックス。『発光』池田彩乃 著(自費出版)

「この世に生きていることが待ち合わせだ」という最後の一節は、人生についての断言ではなく、おそらく彼女が見た光であり、そう信じたいという生きる態度だと思う。そうやって生きていこうよ、と呼びかけられたように感じた。
できるだけ衝動的に、できるだけ刹那的に生きようと思っていた時期があった。
すべてを通り過ぎ忘れて壊れていくことが自分にはお似合いだと思っていた。使い途のない風景が好きだった。
でも、これからは「安心だよ 安心だよ」と噛みつかれたまま言う彼女の詩を、ナウシカに噛み付いたキツネリスみたいに信じてみようと思う。


選・文/本と音楽 紙片 / February 28, 2019 本屋が届けるベターライフブックス。『ともだちは海のにおい』工藤直子 著 長新太 絵(理論社)

本とビールが好きなくじら、お茶と体操が好きないるかのお話。
児童書でもあり詩集でもあるこの本は、生きものの根っこにあるさびしさにもそっと触れながら、いるかとくじらの友情が描かれている。
読後には子どもの頃からやわらかいままだった部分があたためられていて、良い悪いではなくただそこにあるちがいを見つめること、ちがいに優劣をつけないことで生まれる風景と仲良くなりたくなった。
そしてただなんにもせずに、ともだちとお茶やビールをのんだりしたくなった。世界はこの本のようにやさしくあってほしい。
長新太さんの描きすぎない絵もとてもいい。


選・文/本と音楽 紙片 / February 21, 2019 本屋が届けるベターライフブックス。『あさになったのでまどをあけますよ』荒井良二 著(偕成社)

2011年のおわりに発行された絵本。今までは夜に暮らして朝に眠る生活をしていた時期もあったが、この本の中で繰り返される「あさになったので まどをあけますよ」という言葉がいつのまにか自分の暮らしになっていた。
朝に窓を開けるようになって気がついたことは、朝の光のはたらきは、ひとりずつに向けて静かにやってくる夜とはすこしちがうこと。山に海に道に野に人にけものに、あらゆるものにひとしく降り注いでいること。
「明けない夜はない」なんて思えないけれど、「朝になったので窓をあけますよ。」そうしてはじまりの窓を開けていくことのあかるさに気付かせてくれた絵本。


Shihen 本と音楽 紙片

2015年、本と音楽の店を始める。誰かの心にそっと寄り添うような、ひとひらの紙切れのような場所でありたい、という願いを込めて。新しい本とCDを中心に、少しだけ古本も。ジャンルのすきまにこぼれたものを届けている。
広島県尾道市土堂2-4-9 あなごのねどこの庭の奥
http://shihen.theshop.jp/