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Yma Sumac 『Voice of The Xtaby』 連載コラム : Rintaro Sekizuka #2January 14, 2025
毎年時間を見つけては通っているレコード屋が新潟市内にあります。お店の名前は『she ye ye』。
海外から友人が来た際に、おすすめのレコード屋を聞かれたときには必ずおすすめする、私にとって特別なお店です。
一時期、ネットでレコードを探しているときにいつも辿り着く先が『she ye ye』でした。一枚のレコードに対し、どこから知り得たのか、本当に細かく説明が書かれていました。すでに売れてしまったレコードもアーカイブになっており、さらに深掘りをすることができる、正に図鑑のようなオンラインページです。
新着の商品が上がるとすぐに売れてしまって、なかなか買えずにいました。いつかお店に行きたいとずっと思っていて、新幹線で日帰りで伺ったのが最初の訪問です。
新潟駅から商店街を歩いた少し先にポツンとあるお店は、あばら家のような昔の造りをしていて、暖かい空気感をまとっている佇まいです。お店に入ると店主の増子さんが迎え入れてくれて、早速店内のレコードを見るのですが、ほとんど知っているものがない、というのが第一印象でした。
ゆっくりとレコードを聴きながら、色々なことを話しているとだんだんと日が暮れて、気が付いたら東京に帰らなければいけない時間になっていました。
また行こうと思い、友人が海外から来た際に訪れた2回目は、近くのホテルを予約して向かいました。夜までレコードを聴かせてもらい、買ったレコードをホテルに持ち帰って、持参したポータブルプレーヤーとポータブルスピーカーで寝落ちするまで聴きました。
3回目は東京から車で訪問しました。帰りは車中泊をして、購入したレコードの音源をネットで探して、聴きながら帰ろうという計画を立てました。3回目も気づいたら夜遅くなるまで滞在していました。いつも遅くまでありがとうございます。こんなお店をいつか作りたいと思って、毎日励んでいます。
その後、お店を出て30分ほど南下した海岸沿いで車中泊をしました。翌日向かった先は、増子さんに教えてもらった蕎麦店。新潟の清兵衛という十日町の山の中を進み、小高い丘の上にありました。窓をそっと開けたら小鳥がすっと入ってきてしまいそうな雰囲気のお店です。おすすめされたへぎ蕎麦と天ぷらをいただきました。これが美味い。
満足してお店を後にしました。
湧水を汲んで帰ろうということになり車まで歩いていると、草むらからおばあちゃんが出てきました。なにやら草を摘んでいる......? よく見ると、山菜を摘んでいました。
この人なら湧水の場所を知っているに違いないと思い尋ねると、近くにあるから案内するので車に乗せてと言われ、助手席に乗ってもらって向かうことに。
パワーのある元気なおばあちゃんに圧倒されながら色々話しているうちに、いつの間にか湧水スポットに到着していました。
案内された場所で湧水を汲んでいるとおばあちゃんが、そこの山菜も食べれるぞ、と自ら取ってくれました。
その山菜は「イタドリ」という種類。傷薬として若葉を揉んでつけると血が止まって痛みを和らげるということから、その名前がつけられたと豆知識までおばあちゃんに教えてもらいました。ワイルドに皮をむいて食べていたので真似をすると、酸っぱいきゅうりのような味だったのが印象的でした。おばあちゃんをまた蕎麦屋まで送り届けて東京に帰りました。
東京で育った自分としては、山での生活に憧れを持っていて、いつか山で暮らしたいと思っています。
おばあちゃんの姿はたくましく、山を自分の庭のように案内してくれて、おいしい水やおいしい山菜がある場所、生きる上で大切なものを知っていると感じました。
短時間で、生きるパワーを分けてもらったように思います。
山で出会ったおばあちゃんにぜひ聴いてほしいのは、Yma Smacのアルバム『Voice of The Xtaby』です。
彼女はペルー出身でインカの王たちの末裔、インカの王女という異名を持ち、4オクターブの音階を力強く、神秘的に歌う強い魂を持った歌手です。エキゾチカを象徴する偉大な音楽家、Les Baxterに見いだされて50年代初頭に大ヒットしました。
そしてなにより驚かされるのは生涯3000回以上のパフォーマンスを重ねたという彼女の生命力です。
蕎麦屋の前で出会ったおばあちゃんから感じた生きる力と、Yma Smacの歌声から感じる魂は同じ世界のものだと感じます。
また春先に蕎麦屋の前で会えることを楽しみにしています。
どうぞお元気にお過ごしください。
edit : Sayuri Otobe