MUSIC 心地よい音楽を。
今月の選曲家 橋本徹March 18, 2016
Mar. 18 – Mar. 24, 2016
Saturday Morning

陽光の中、鳥の歌を聴き、自由について思う。雨よ、降らないで。今の俺の気持ち。──黒いボブ・ディランとも言われる詩人ギル・スコット・ヘロンの音楽は、そのカッコ良さに惹かれて好きになりましたが、いつの間にか最も沁みる歌声になりました。数えきれないほどたくさんある彼の名曲の中でも、これはポジティヴな歌、そしてピースフルで柔らかなグルーヴ。震災でしばらく音楽を聴くような気持ちになれなかった頃、ある朝ふと口ずさんだのがこの曲でした。タフで優しい、あのレイモンド・チャンドラーがフィリップ・マーロウに語らせた台詞のような音楽。もし気に入ったら、続けてコープランド・デイヴィス・グループのその名も「Morning Spring」も聴いてみてください。春の朝、貴方はもう立派なFree Soulファンです。
アルバム『Pieces Of A Man』収録。
アルバム『Pieces Of A Man』収録。
Sunday Night

僕は春の鳥が好きなんだ。君はどう?──チェット・ベイカーのように憂愁を帯びた“Feeling so blue”な歌い口に、甘い言葉が溶けだしてゆく。シックでラウンジーな心地よさと前衛的でハイブリッドなセンスが絶妙のバランスで両立する21世紀のスタンダード、カナダはトロントのアヴァン・フォーク/ジャズ系シーンの重要バンドによる知る人ぞ知る名盤ですが、1930〜50年代の古いジャズにインスパイアされた、ロマンティックな情趣と洒落た言い廻しに心動かされる名曲群は、夢と現実のあわいをたゆたうような叙情と陰影をまとっています。中でもこの曲は、春の宵に口ずさんでいると、“fantasy”と“reality”という響きにビーチ・ボーイズ「Disney Girls」の歌詞も脳裏をよぎり、失われたアドレセンスに涙腺がゆるんでしまう、心の柔らかい部分を締めつけられるラヴ・ソング。過ぎ去りし日々へのノスタルジアやほのかなセンティメントが滲んだ愛のささやきが胸を打ちます。
アルバム『Plays The Stephen Parkinson Songbook』収録。
アルバム『Plays The Stephen Parkinson Songbook』収録。
SUBURBIA 橋本 徹

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。〈サバービア・ファクトリー〉主宰。渋谷の〈カフェ・アプレミディ〉〈アプレミディ・セレソン〉店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは290枚を超える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に『Suburbia Suite』『公園通りみぎひだり』『公園通りの午後』『公園通りに吹く風は』『公園通りの春夏秋冬』などがある。2016年最初のCDリリースは『Ultimate Free Soul 90s』。