MUSIC 心地よい音楽を。
今月の選曲家 橋本徹March 11, 2016
Mar. 11 – Mar. 17, 2016
Saturday Morning

春の足音が少しずつ近づいてくるようにリズムが動きだす。まどろむようなエレピに、朝カーテンを開けて、部屋が新しい光に満たされてゆくように、透明感のあるメロウな女性ヴォーカルが広がる。美しいハイトーン・ヴォイスの持ち主デニース・ウィリアムスは、スティーヴィー・ワンダーのバック・コーラス隊ワンダーラヴの一員でしたが、EW&Fのモーリス・ホワイトと僕の大好きなチャールズ・ステップニーのプロデュースによるこの名作でソロ・デビュー。ミスト・シャワーのような清涼感あふれるコーラス・ワークにヴァイブとホーンが彩りを添えるこの曲は、“Free Soul”というネイミングの由来のひとつでもあります。しっとりとたおやかな浮遊感が心地よい「Free」は夕暮れから夜に聴く、という方も多いでしょうが、最近の僕は土曜の朝に。素敵な休日の始まりを約束します。夜の帳が下りたら『Ultimate Free Soul 90s』収録のシャンテ・ムーアによるシルキーで艶のあるヴァージョンをどうぞ。
アルバム『This Is Niecy』収録。
アルバム『This Is Niecy』収録。
Sunday Night

春の歌といえば思い浮かべる、NYの女性SSWローラ・ニーロの名曲。モノクロの肖像画にイヤリングだけ淡い紅に染められたジャケットも印象的なオリジナルも素晴らしいのですが、『Free Soul ~ 2010s Urban-Jazz』に収めたビリー・チャイルズというジャズ・ピアニストが彼女に捧げた香り立つように崇高なカヴァーを。息を呑む歌声は今をときめくエスペランサ・スポルディング、馥郁たる響きの絶品のソプラノ・サックスはウェイン・ショーター。イントロのピアノから時を止めるような美しさで、オリエンタルなメロディーを典雅に引き立てるハープなど弦楽器を中心にした清らかなオーケストレイションも、透き通るような音の純度にうっとり。歌詞に耳を傾けていると、異国情緒あふれる春の一日を描いた短編映画を観ているようで、柔らかな風や立ち昇るチャイナ・ティーの湯気にも春がささやきかけてくるのを感じます。プロデュースはラリー・クライン。ビリー・チャイルズは今月末、このローラ・トリビュート来日公演もあるので楽しみ。
アルバム『Map To The Treasure』収録。
アルバム『Map To The Treasure』収録。
SUBURBIA 橋本 徹

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。〈サバービア・ファクトリー〉主宰。渋谷の〈カフェ・アプレミディ〉〈アプレミディ・セレソン〉店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは290枚を超える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に『Suburbia Suite』『公園通りみぎひだり』『公園通りの午後』『公園通りに吹く風は』『公園通りの春夏秋冬』などがある。2016年最初のCDリリースは『Ultimate Free Soul 90s』。