MUSIC 心地よい音楽を。
音楽家、音楽プロデューサー 冨田ラボ・冨田恵一さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.2June 13, 2025
June.13 – June.19, 2025
Saturday Morning

世界中すべての時代、すべての曲の中で、最も好きなもののひとつ。リリース時は”ジョイス”というアーティスト名だったが、’00年代くらいから”ジョイス・モレーノ”を名乗るようになったブラジリアンSSW の作品です 。’60年代からの長いキャリアを誇るがいまだ現役で活動中で、シンガーとしてのジョイスも敬愛しています。ブラジリアンミュージックであることと、基本的には丸みを帯びた声であることから、ソフトな雰囲気で捉えられることも多いが然にあらず。中身の詰まった声質と正確なピッチ、遠くまで届く声量のなんと力強いことか。ブラジルのシンガーの多くが、一般的なボサノヴァのイメージとはかけ離れた力強さを持っています。だからこその弱唱での説得力ということですね。
若いころ、曲名「Ela」を「あーこの複雑だがエモーショナルな曲名はジャズシンガーのエラ・フィッツジェラルドに捧げたのだろう」と勝手に思っていましたが、ポルトガル語で“She”の意味のようです。第一フィッツジェラルドの”エラ”は”Ella”ですしね——恥。この vers. のアレンジは鬼才エグベルト・ジスモンチが共同で手がけ、シンセサイザーを弾いています。英語歌唱で「Music inside」というタイトルでもリリースされていましたが、現在各種サブスクにはありません―こちらも素晴らしいです。
アルバム『Tardes Cariocas』収録。
若いころ、曲名「Ela」を「あーこの複雑だがエモーショナルな曲名はジャズシンガーのエラ・フィッツジェラルドに捧げたのだろう」と勝手に思っていましたが、ポルトガル語で“She”の意味のようです。第一フィッツジェラルドの”エラ”は”Ella”ですしね——恥。この vers. のアレンジは鬼才エグベルト・ジスモンチが共同で手がけ、シンセサイザーを弾いています。英語歌唱で「Music inside」というタイトルでもリリースされていましたが、現在各種サブスクにはありません―こちらも素晴らしいです。
アルバム『Tardes Cariocas』収録。
Sunday Night

SNSで新しい音楽と出会うことも多くなったが、このバンドにもインスタで出会った。ミニ・トゥリーズは分類するならインディー・ポップ・ロック・バンドとなるだろうが、まったくの初聴ながらヴォーカリスト、レキシ・ヴェガのボーカル・アプローチに惹かれた。音楽構造はギター中心でシンプルながら、さまざまな音楽的、音響的工夫で浮遊感を演出している。しかしなんと言っても、ヴェガがひと声放つたびに溢れ出る情報量に驚かされたのだ。地声とファルセットをスムースに、時には意識的に落差をつけて行き来するアプローチはとても魅力的で、声自体が持つ情報量と共に音楽全体を豊かに響かせる。
興味を持った僕はミニ・トゥリーズを調べ始めるのだが、個人的に驚愕の事実を知った。レキシ・ヴェガは今は亡き名ドラマー、カルロス・ヴェガの娘であったのだ。しかも母親、カルロスの妻は1980年代からLA で活動する日系フュージョン・バンド“HIROSHIMA”にヴォーカル参加していた日本人だという。’90年代に悲しい最後を遂げたカルロスは大好きなスタジオ・ドラマーであり、折に触れ動画を観る機会も多い。父娘の関係性など微塵も知らぬまま、インスタで彼女の歌に惹かれたのは偶然に他ならないが、通底する音楽性を感じ取った可能性は十分にある——それがドラムと歌でも、だ。ミニ・トゥリーズの音楽には注目していきたい。
ミニアルバム『Burn Out』収録。
興味を持った僕はミニ・トゥリーズを調べ始めるのだが、個人的に驚愕の事実を知った。レキシ・ヴェガは今は亡き名ドラマー、カルロス・ヴェガの娘であったのだ。しかも母親、カルロスの妻は1980年代からLA で活動する日系フュージョン・バンド“HIROSHIMA”にヴォーカル参加していた日本人だという。’90年代に悲しい最後を遂げたカルロスは大好きなスタジオ・ドラマーであり、折に触れ動画を観る機会も多い。父娘の関係性など微塵も知らぬまま、インスタで彼女の歌に惹かれたのは偶然に他ならないが、通底する音楽性を感じ取った可能性は十分にある——それがドラムと歌でも、だ。ミニ・トゥリーズの音楽には注目していきたい。
ミニアルバム『Burn Out』収録。
音楽家、音楽プロデューサー 冨田ラボ・冨田恵一

冨田ラボとして、これまでに 7 枚のオリジナルアルバムを発表。最新オリジナルアルバムは『7+』は20 名の豪華アーティストが参加。 長年に渡り冨田恵一のソロプロジェクトとして親しまれてきたが、2025年 新メンバーとして、Arche、北村蕗、Santa、 ヨウという 4 人のボーカリストが加入。新体制後初の楽曲「the birds of four」をリリース。2025 年 4 月には今年 デビュー30 周年を迎える UA をフィーチャーした新曲「あはは feat. UA」をリリース。自身初の音楽書『ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法-』は横浜国立大学の入学試験問題に採用された。オフィシャルファンサイト「冨田ラボスタジオ」では、 日々の音楽生活が豊かになるオリジナルコンテンツ情報が満載。