シンガー・ソングライター、詩人の柴田聡子さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.2September 13, 2024

土曜日の朝、今日から二日間はNHKの連続テレビ小説『虎に翼』の放送が無いんだ、と思う。ここ半年、ずっと心の拠り所なので無いとそわそわしそうなものだけど、月曜から金曜をかけて全身全霊さまざまなことを描いてくれているから、その余韻が土日にもしっかり体の中響いてくれていて心強い。この曲はドラマのメインテーマで、ある日突然に歌ありのバージョンが流れて、バッと立ち上がった。『虎に翼』は、ほんとうにたくさんのことを描こうとしている気がする。すべてを描くことはできないとしても、それでもなんとしてでも描くんだという意思を感じて、見ている時によく涙が出る。物語はとても面白く、励まされたり光明を見る場面も多いけれど、土台は人それぞれの地獄、しかも立ち上がるためのかたさが地面に残っている、それが地面に突っ伏した人にはわかる、立つかどうかはその人が決める、そんな地獄の話のように思う。それは希望であって地獄であって、泣いてしまう。この曲のはじまりの音色やメロディーは、地面からようやく立ち上がった人がとぼとぼと歩きはじめる足取りのおぼつかなさのようで悲しい。そこにすぐ、あたたかいメロディーが太陽の光が差すように参加してくる。曲全体を通してやわらかいけれど全力の励ましが繰り広げられて最後にはまた歩く人ひとりのメロディーになる。でも曲が始まった時とはちがう強さが宿っている。現実世界ではこういう時間の流れはないことが多いけれど、音楽ではあるから、音楽はいいなと思う。歌詞は、疑うことに慣れ切った自分などは動揺してしまうほど、まっとうで力強いエールに感じる。どんな地獄であっても廃れることのない勇気のある言葉だと思った。
アルバム『連続テレビ小説『虎に翼』オリジナル・サウンドトラック Vol.1』収録。