MUSIC 心地よい音楽を。

今月の選曲家 寺尾紗穂January 20, 2017

January.20 – January.26, 2017

Saturday Morning

Bill Withers
Title.
Lovely Day
Artist.
Bill Withers
昔つきあっていた人が教えてくれた歌。道で包丁とぎするおじさんにも気軽に声をかけ、タクシーの運転手さんとの会話もお決まりだった。毎日が日曜日みたいな人だった。私もしばらく、一人の時もそういう風に心が開いて、タクシーに乗って昔は黙りこくっていたのに、気が付けばおしゃべりするようになっていた。恋をすることは、誰かの眼差しを自分の中に持つことだ。眼差しを重ね、心を重ねて、私が少しずつ、変わりながら、できていく。今日の私もその結末。いつも原稿を書く店でこの曲がよくかかる。その度にあの頃の気持ちを思い出し、休日の朝みたいなこの曲の清々しさに思わず目がうるむのだ。
アルバム 『Menagerie』収録。

Sunday Night

浅川マキ
Title.
ケンタウロスの子守唄
Artist.
浅川マキ
小さいころ母がよく歌ってくれた不思議な歌があった。たまに聴きたくなってあれを歌って、と頼んだものだ。歌を歌うようになってから、あれは何の歌だったのと聞くと、浅川マキだと言うので驚いた。筒井康隆作詞、山下洋輔作曲というタッグもすごい。詩世界は斬新ながら懐かしく、“寝ないならば捨てる”というのは、日本の守子歌の情念を忠実に継承している。それを彼女が選んで歌ったというのもまたいい。一番二番三番と、赤白青の「お馬」が歌われていて幻想的なイメージが美しい。いい曲だけど、私が娘たちに歌ったら、やっぱり私みたいな天邪鬼になるかしら。
アルバム『裏窓 MAKI V』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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シンガーソングライター、エッセイスト 寺尾 紗穂

1981年、東京生まれ。2006年に『愛し、日々』でソロデビュー。セカンドアルバム『御身』は坂本龍一、大貫妙子らから高い評価を得た。大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』や、安藤桃子監督『0.5ミリ』(安藤サクラ主演)の主題歌を担当した他、 CM(資生堂、ユニクロ、出光など)、文筆の分野でも活躍中。著書に『評伝川島芳子 男装のエトランゼ』(文春新書)、『原発労働者』(講談社現代文庫)、『南洋と私』(リトルモア)などがある。現在は文芸誌「すばる」(集英社)で「あのころのパラオをさがして」、「ウェブ平凡」(平凡社)で「山姥のいるところ」、「ウェブ本の雑誌」(本の雑誌社)で「私の好きなわらべうた」、「ウェブ花椿」(資生堂)で「銀座時空散歩」のほか「高知新聞」でのエッセイ執筆など連載多数。最新アルバムは日本各地で歌い継がれてきた“わらべうた”をリアレンジした2016年リリースの『私の好きなわらべうた』。

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