BOOK 本と言葉。

素敵な本に出合える、私の好きな本屋。
作家、歌人・くどうれいん×『ボタン』 INSPIRING BOOKS いい本との、出合いは大切。September 18, 2022

足を運べばいつも、思いがけない偶然の出合いと新たな発見がある、そんな魅力を持った本屋。どんな本を選び、どう並べるか……そこにはきっと、店主のこだわりが感じられるはず。2022年8月発売の特集「いい本との、出合いは大切。」より、作家・歌人くどうれいんさんにお気に入りの本屋へと案内してもらいました。

VISITOR  くどうれいん 作家・歌人  SHOP ボタン 仙台・花京院

初来店時、くどうれいんさんだと気がついて声をかけた店主の薄田通顕 (みちあき) さん。普段は客に話しかけないが、彼女の著作を扱っていたためこのときばかりは例外だった。ふたりが見ているのは、せんだいメディアテークで開催された『青野文昭 ものの, ねむり, 越路山, こえ』展の作品集『AONO FUMIAKI NAOSU』。手前は、くどうさんがいつも時間をかけてチェックするZINEのコーナー。
初来店時、くどうれいんさんだと気がついて声をかけた店主の薄田通顕(みちあき)さん。普段は客に話しかけないが、彼女の著作を扱っていたためこのときばかりは例外だった。ふたりが見ているのは、せんだいメディアテークで開催された『青野文昭 ものの, ねむり, 越路山, こえ』展の作品集『AONO FUMIAKI NAOSU』。手前は、くどうさんがいつも時間をかけてチェックするZINEのコーナー。

思いがけない詩や絵本と出合える、小さな拠点。

主に、詩歌集を並べた一角。茨木のり子や石垣りんの詩集のほか、服部真里子や山崎聡子らの歌集も揃う。手塚治虫の漫画やガートルード・スタイン『世界はまるい』 (アノニマ・スタジオ) などの海外文学作品も随所に並んでいる。上から2段目、雪舟えまの『たんぽるぽる』 (短歌研究社) は薄田さんが短歌を読むようになったきっかけの本で思い入れがあるため、つねに置いているそう。
主に、詩歌集を並べた一角。茨木のり子や石垣りんの詩集のほか、服部真里子や山崎聡子らの歌集も揃う。手塚治虫の漫画やガートルード・スタイン『世界はまるい』(アノニマ・スタジオ)などの海外文学作品も随所に並んでいる。上から2段目、雪舟えまの『たんぽるぽる』(短歌研究社)は薄田さんが短歌を読むようになったきっかけの本で思い入れがあるため、つねに置いているそう。

"言いきりたくない自分"に寄り添う本が、必ず見つかる。

 先に『ボタン』を見つけたのは、くどうれいんさんのパートナーだった。絶対、好きに違いないから、と連れてこられたのだ。
「お店に足を踏み入れて、うわ~!って声が出てしまいました。山川彌千枝さんの遺稿集『薔薇は生きてる』、梶谷いこさんのZINE『家庭料理とわたし』と、欲しい本がたくさんあったから」
 確かに店内は5坪とこぢんまりとしているが、広いレンジのセレクト。けれど、押しつけがましくなく適度に隙があって、だからか、必ず新しい発見がある予感がして思わず心が躍る。好きな本だけを並べているのかとよく聞かれるが、まったくそんなことはない、と店主の薄田通顕さん。
「基本的に考えているのは、世の中で起きているいろいろなことにつながっていくといいな、ということでしょうか。ダイレクトに社会問題が題材の本もあれば、そうではないものもありますが」
 そのために心がけているのが「3人くらいで店をやっているつもり」でいること。「自分ひとりだと、どうしても限界があるし、風通しも悪くなる。なので、好きな作家さんや、その方が気になっているさらに別の作家さんなど。その人たちと相談しながら仕入れているような気持ちです」
 脳内従業員は固定ではないが、くどうさんもそのひとりだ、と薄田さんは吐露する。すると、くどうさんも「そうなんですね。私も多ジャンルにわたって書くので、執筆する際は自分のなかに3人くらいいる感覚なんです」と意外な共通点も。
 そして、この"断言しない"セレクトにこそ、くどうさんは惹かれている。
「仕事上、何か言わなくちゃいけないけれど、言いきるのはこわい。でも言いたいことがないわけじゃないという局面があります。ここには、そんな私に寄り添ってくれる本が必ずあるんです。ちなみに、以前まとめ買いした岡崎京子さんの漫画が、実は薄田さんの私物だったということは今初めて知りましたが……!」
 

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ゆるやかに隣同士の本が関連し合う陳列で、基本的に明確なジャンル分けはされていない。ただし絵本だけは例外で、植物、動物とテーマ別に。
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仙台在住のイラストレーターによる著書『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』(ミシマ社)を座り読み。
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「欲しかった本よりも、ここで出合ったものを買うことが多い」と、『茨木のり子の献立帖』(平凡社)を手に取るくどうさん。
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引き戸の下に貼ってあるボタンの絵が、店の看板代わり。

 また、幼少から親しんできた絵本や、学生時代に心の支えになった詩歌集、執筆の世界に入るきっかけになったZINEが充実しているのも、くどうさんを虜にしている。長新太の漫画『人間物語』、吉田恭大の歌集『光と私語』や大好きな漫画家、スケラッコによる著書やZINEも(サイン本まで!)、ほとんどここで手に入れた。
「そこに特に力を入れているわけではないんですが」と薄田さん。「ただ、絵本だけはちょっと意識しています。大人も子どもも関係なく、さっき言った世の中のことを直接的でも間接的でも、世界を知る入り口になりやすいので。たとえば、柴田元幸さん訳、エドワード・ゴーリーの絵本『むしのほん』は、開店当初から置いています。ある虫の群れに突然、1匹の別種の虫がやってきて、その後虫社会がどうなるかを描いているんですが、人間社会にも通ずるものがある。"幸福"とされる結末についても考えてしまう作品です」
 決して誘導したり、声高に主張したりはしない。だからお客さんにもほとんど話しかけないし、特定の本を薦めることもあまりない。なるべくすべての本を並列に見せたい。そんな店主の姿勢のおかげで自分も気持ちが楽になる、とくどうさん。
「考え続けるために背中を押してくれる本と出合える。導かれるように、けれどとても気さくな出合いだから、ここに来ると息がしやすいんです」

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仙台市青葉区花京院2−1−40 南側 12:00〜18:00 月火水休 ☎なし
https://button-sendai.stores.jp

2018年にオープン。ガラスの引き戸を開けると、5坪の小さな空間に心地よく本が並んでいる。ZINE、リトルプレス、詩歌集、絵本は特に豊富に揃う。オンラインショップも。

photo : Shinsaku Kato text : Mick Nomura (photopicnic)
※『&Premium』No. 106 2022年10月号「INSPIRING BOOKS / いい本との、出合いは大切。」より


作家・歌人 くどう れいん

1994年生まれ。岩手県出身、在住。著書に、エッセイ『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、歌集『水中で口笛』(左右社)、小説『氷柱の声』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。

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