BOOK 本と言葉。

〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんが選ぶ、道具への造詣が深まる12冊の本。March 09, 2025

〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんの住まいを訪ね、ものを選ぶ“見る目”を養ってくれた本の話を教えてもらった。日野さんの心地よい住まいと、大切な本の話はこちらから。ここでは、日野さんが選ぶ、道具を知るための参考になった12冊の本を、日野さんのコメントと合わせて紹介します。

1冊目:雑貨をキーワードに社会を思考する。 

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
 『すべての雑貨』
著 三品輝起 (夏葉社)

2005年から東京・西荻窪でアンティークや作家ものの器も扱う雑貨店『FALL』を営んでいる三品輝起の著作。自身の生活や半自叙的記述を盛り込みながら雑貨とそれを取り巻く社会について考察している。「文章が面白くて自虐っぷりもすごいんです。ここまで自虐されるとかえってさっぱりしていると感じるほど。ただやっぱり途中で辛くなってくるので一度読むのをやめる。しばらくしたらまた続きを読み始める。ちょっと面倒ですが一読の価値ありです」

2冊目:民藝運動を新たな視点から捉えた対談集。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『アウト・オブ・民藝 改訂版』
著 軸原ヨウスケ 中村裕太 (誠光社)

2018年に行われたトークと展示による企画「アウト・オブ・民藝」を書籍化。こけしや郷土玩具など民藝に入りそうで入らなかったものへの疑問を契機に、民藝とその周辺についてとことん調査。デザイナーの軸原ヨウスケと美術家・中村裕太の対談によって構成されている。「民藝運動をリスペクトしつつ、ちょっと斜に構えている。けれど、よくここまで調べたと思います。マニアックとはこのこと。特に帯裏にある柳宗悦を中心とした人物相関図は圧巻です」

3冊目:愛嬌があり上品、エレガンスの大切さを認識。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『グレース ファッションが教えてくれたこと』
著 グレース・コディントン
訳 田代 文 (スペースシャワーネットワーク)

「グレースさんの生い立ちから語られているボリュームのある一冊。翻訳もとてもよく、近くに寄り添ってくれるような文章がたくさん書かれていました。ずっとシンプルがいいと思ってきましたが、エレガンスも必要だと思わせてくれた本です」。モデルを経て、アメリカ版ヴォーグ誌のクリエイティブディレクターに。ヴォーグの制作のプロセスを描いたドキュメンタリー映画『ファッションが教えてくれること』でも強烈な印象を残した。

4冊目:日常にあるおいしさをすくい出すエッセイ。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『買えない味』
著 平松洋子 (ちくま文庫)

箸置きや調理スプーン、キッチンクロス、ろうそく、買い物かごといった道具から、ひとたらしのレモンなど、買えない味50編が次々と登場。軽妙な筆致で綴られる。「道具の商品開発は既存品の何が不満で、どこが長所なのかをリサーチすることから始まります。あるときトングのことを考えていて、そういえば平松洋子さんがトングについて書いていたなと手に取ったのがこちら。料理をする人だからこそ書けるさすがな文章で、ちょっと悔しい」

5冊目:盛岡の人気工芸店の秘密が一冊に。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『光原社 北の美意識』
てくり別冊 (まちの編集室)

1924年に宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』を発行した岩手・盛岡の『光原社』。その後、柳宗悦や芹沢銈介らと知遇を得て’65年に工芸品店に。その歴史を含めた現在を盛岡のミニコミ誌『てくり』が別冊にまとめたもの。「全国に類を見ない品格を持った店。筋の通ったこの店の歴史を知ることができる貴重な一冊です。ふだんは表に出ない漆職人のインタビューが掲載されていたり、『古道具坂田』の坂田和實さんや陶芸家の安藤雅信さんらも寄稿」

6冊目:中国と日本の食文化と道具使いを教わる。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『北京の台所、東京の台所 中国の母から学んだ知恵と暮らし』
著 ウー・ウェン (ちくま文庫)

「ウーさんに興味を持ったのは、料理上手な岡山の備前焼職人・木村肇さんに彼女のレシピがおいしいと教えてもらってから。まずは人を知ろうとこの本を手に取りました。異文化の比較が好きなこともあり、心にすっと入ってきました。道具を上手に活用するためにもウー・ウェンスピリッツを吸収したいと思います」。日中の食文化の違い、毎日使っている炒め鍋や包丁などの台所道具の話などが生い立ちも含めて綴られる。簡単なレシピも掲載。

7冊目:消費者をやめて愛用者になるための道標。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『増補版 割りばしから車まで』
著 秋岡芳夫 (モノ・モノ)

半世紀以上も前に、大量生産大量消費に疑問を呈し"暮らしのためのデザイン"を思考した工業デザイナー、秋岡芳夫。「今のリテラシーが積み重なった時代に読むと、なおさら新鮮に感じられます。直接、授業を受けられたのは幸いでしたが、もっとちゃんと会話ができるくらい大人でありたかった。一ページ一ページ、丁寧に読んでいくと、プロダクト、環境、地域、素材など、いろいろなことを深く理解した上で書いていらっしゃるのがわかります」

8冊目:民藝運動を理解する一助になる本。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『民藝の歴史』
著 志賀直邦 (ちくま学芸文庫)

日常の雑器に美を見いだし、社会を美でもって変えようとした民藝運動。伯父である作家・志賀直哉の影響で、白樺派や民藝の同人に囲まれて育った著者。民藝店『銀座たくみ』の社長・会長を務め、柳宗悦や河井寛次郎らの薫陶を受けた一人として、その歴史を記した。「柳と同じ時代を生きた人の民藝の話は貴重です。流通についての話もあり、問屋の立場からも興味深かったです」。2016年に出版。"これからの民藝運動"という章で終わっている。

9冊目:美しいものを美しく捉える写真に興奮。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『かたち 日本の伝承1 木・紙・土』
写真 岩宮武二 (美術出版社)

全2巻のうち、1巻は木・紙・土の"かたち"に特化した写真集。撮影したのは日本の美や風土を追求した写真家・岩宮武二。30㎝を超える大判本に、フィルムのモノクロ写真がページいっぱいに掲載。アートディレクションは早川良雄。ピエブックスから『Katachi 日本のかたち』というタイトルで高岡一弥がアートディレクションしたポケット判も発行されている。「写真もグラフィックもたまらなく格好いいです。フィルム時代の写真の本気度に痺れます」

10冊目:実在の人物がモデルの、ユーモラスな小説。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『珍品堂主人』
著 井伏鱒二 (中央公論社)

北大路魯山人が経営する高級料亭・星岡茶寮の支配人となった、古美術評論家で骨董の目利きである秦秀雄(雅号・珍堂)をモデルにした小説。豊田四郎監督によって映画にもなった。「2000年頃に魯山人に興味を持つようになって読んだら面白くて。仕入れや産地について書かれていると気づいたのは2回目に読んだとき。すでに3冊持っていますが、増補新版には自作解説エッセイや買い出し紀行を綴った一文もあるようなので、こちらも購入予定です」

11冊目:昭和のリアルな生活スタイルが浮き彫りに。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
『Showa Style 再編・建築写真文庫』
編 都築響一 (彰国社)

1953〜70年に145巻を刊行した『建築写真文庫』のうち、商業施設を扱った79巻を再編集したもの。映画館や喫茶店、レストラン、小劇場、洋品店など昭和の薫りが色濃く残る建築の写真は、見飽きることがない。施設内で使われている器や道具、家具、装飾品などの細かいしつらえも見どころ。「私にとって絵本のようなもの。モダンデザインの建物ってなんて格好いいんだろうと、眺めて楽しんでいます。よくぞ再録してくれたと感謝しています」

12冊目:杉本博司の豊かな知識と美意識に圧倒。

暮らしと、道具の本。 道具への好奇心に突き動かされた、〈スタジオ木瓜〉主宰・日野明子さんのやむことがない本への愛情。
 『江之浦奇譚』
著 杉本博司 (岩波書店)

杉本博司が構想と設計を手がけた、神奈川・小田原にある『小田原文化財団 江之浦測候所』。古代から近代までの建築遺構から収集された由緒ある考古遺産が、9496㎡ものランドスケープにさりげなく配されている。「訪れたときに購入したサイン本。由緒あるものたちが、どのように杉本さんのもとに集まってきたかといった話が記されていて、圧倒されます。よいものを見極めるにも得るにも知識があってこそ。読んでから訪れることをおすすめします」

photo : Masanori Kaneshita edit & text : Wakako Miyake


〈スタジオ木瓜〉主宰 日野明子

1967年神奈川県生まれ。松屋商事でフォンランド〈iittala〉のグラスと日本の工芸品の営業で社会人生活スタート。会社の解散をきっかけに’99年ひとり問屋として独立。現在は、日々全国をまわり、作り手に会い、ショップでの展覧会企画、産地へのアドバイス、執筆などに繋げている。2025年3月にグラフィック社より「台所道具の選び方、使い方、繕い方」を上梓。

x.com/smilehino

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