BOOKSHOP トンガ坂文庫
選・文 / トンガ坂文庫 / January 12, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『オールド台湾食卓記——祖母、母、私の行きつけの店』洪愛珠 著、新井一二三 訳 (筑摩書房)
This Month Themeお取り寄せを楽しみたくなる本。

タピオカミルクティーは「揺揺」でスペアリブスープは「白湯肉骨茶」。馴染みのある食べ物も、台湾の言葉で表現されると急にエキゾチックな雰囲気を帯びる。豚肉もよく食べられる食材のひとつであるようだが、豚肺とパイナップルを一緒に炒めるなど意外な取り合わせの調理が興味深い。本書は、地元台湾をはじめ東南アジアや香港などを舞台に、母と祖母との思い出を語るエッセイ。大家族の賑やかな食卓の記憶を呼び覚まし、台北文学賞も受賞した。これを読みながらふと、取り寄せた料理を異国の呼び名で食すという遊びを思いついた。パイタンロウグーチャとヨウテイアオでお腹を満たし、デザートはタンユエンにヤオヤオと洒落込みたい。
選・文 / トンガ坂文庫 / January 05, 2023 本屋が届けるベターライフブックス。『食と建築土木』後藤治・二村悟 編著、小野吉彦 写真 (LIXIL出版)
This Month Themeお取り寄せを楽しみたくなる本。

日本各地の食の特産品を取り寄せることができる時代である。それが特産品と呼ばれるのは、つくり手の苦悩とリアリズムに満ちた創意工夫があり、その工程がユニークなものにならざるをえないからだ。食べものをつくる作業場を調査したこの本では、大根を干す巨大な「やぐら」や、階段状のワサビ田を流れる水路の構造、海面すれすれに広がる海苔養殖の網など、特産品を生み出す奇妙で魅力的な建築や土木技術を知ることができる。生産地の風景ができあがった理由がわかると、今度は、そこでつくられた味を食べてみたくなるだろう。生産地を思う食卓は豊かだ。おいしいものの原点は、いつか失われてしまうかもしれない農山漁村の風景のなかにある。
選・文 / トンガ坂文庫 / December 29, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『ジーン・ウルフの記念日の本』ジーン・ウルフ 著、酒井昭伸・宮脇孝雄・柳下毅一郎 訳 (国書刊行会)
This Month Themeお取り寄せを楽しみたくなる本。

大晦日は近年、「ベルボトム・ジーンズの日」として認定された。元旦は「肉汁水餃子の日」でもあるらしい。記念日はいまや無数にあって、毎日かならず何かの日である。記念日にまつわる物語を集めたこの短編集では、それぞれの日について考えてみてから読むことを作家自らが勧めているのだが、クリスマス・イブに勃発するおもちゃ同士の戦争や、異星で宇宙人と暮らす人類のクリスマスなど、アメリカの暦に馴染みがなくても楽しめる。一日一日に特別な物語や意味を感じることができたら、人生は楽しいだろう。特別な日には、おいしいものを取り寄せたい。それが何でもない日でも、おいしいものが届けられた日は新しい記念日になるだろう。
選・文 / トンガ坂文庫 / December 22, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『もう一人の吾行くごとし秋の風 村次郎 選詩集』菅 啓次郎 選 (左右社)
This Month Themeお取り寄せを楽しみたくなる本。

漁村に住んでいて日頃から美味しい魚を食べていても、知らない土地の知らない魚について書かれた言葉を読むとき、無性にそれを味わってみたくなる。例えば青森県八戸の詩人、村次郎が食べる「ハタハタ」。魚へんに神と書くその「淡い水色の魚」を、詩人は「目にしみる大根のしぼり醤油」で食べた。ハタハタは雷鳴轟くような荒れた海で獲れるらしく、むかし雷神を「霹靂神(はたはたがみ)」といったことから、そう名付いたという。村次郎の詩に食べ物が多いわけではないのだが、「銀鮭」や「青林檎」など、土地に根ざした字面につい、目が留まる。力のある言葉とともに味わう料理はいつまでも記憶に残るだろう。ハタハタは冬が旬である。
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三重県尾鷲市の漁村・九鬼町の小さな路地「トンガ坂」に佇む、新本・古本を扱う本屋。絵本、児童文学、人文学などの選書が豊富。
住所:三重県尾鷲市九鬼町121
営業時間:土日祝 11:00-17:00
定休日:不定休