音楽喫茶の〝いい店〞案内。

変わらずそこにあることに、意味がある名店。東京・渋谷『名曲喫茶ライオン』:音楽喫茶の”いい店”案内。vol.1December 12, 2024

編集者の山村光春さんが考える、今こそ訪れたい"いい音楽喫茶"とは? 山村さんの考察とともに、15の喫茶店とその店を象徴する一枚を紹介。最初に登場するのは、東京・渋谷『名曲喫茶ライオン』。

変わらずそこにあることに、意味がある名店。東京・渋谷「名曲喫茶ライオン」:音楽喫茶の"いい店"案内。vol.1

めぐりめぐって今、輝きを帯びる新たな役目。
文/山村光春

花ざかりは1960年代、レコードがすこぶる高価だったあの頃。ジャズやクラシックの新譜を求め、こぞって人々が訪れたのが音楽喫茶。いい曲をいい音で聴くことが目的ゆえ、基本は静かに、大声で話すのはご法度だった。そして今、本来の機能は失われつつあるものの、取って代わった新たな役目。それは何かとノイズにさらされる暮らしの、エスケープできる聖域として。「スマホを見ず、音楽を聴く」という縛りに感じる自由と尊さ。とはいえここで紹介するお店に、ハードルの高さはない。誰をも分け隔てなく受け入れる風通しのよさがあり、会話を楽しめる店も多く、居心地はいい。何より当時の作法とムードは受け継ぎながら、ちゃんと今を生きている。

『名曲喫茶ライオン』
変わらずそこにあることに、意味がある名店。

約100年の歴史を誇る、名曲喫茶のレジェンド的存在。大量のレコードや、吹き抜けの2階まで音を響かせる大型スピーカー、歴史を感じる内装など、扉を開けば名曲喫茶黎明期の世界が広がる。ひと際存在感を放つスピーカーは、常連だった東芝の技術者がユニットの大きさや傾斜を計算して作った特注品。唯一無二の響きに、コンサートホールにいるかと錯覚する。じっくりクラシックに浸れる場として、現存することに尊さを覚える店だ。

『名曲喫茶ライオン』を象徴する一枚『バッハ:管弦楽組曲第2番、第3番』Karl Richter : Munich Bach Orchestra

変わらずそこにあることに、意味がある名店。東京・渋谷『名曲喫茶ライオン』:音楽喫茶の”いい店”案内。vol.1

営業前に欠かさず行う、スピーカーチェックのお供。第3番は誰もが一度は聴いたことがあるバッハの名曲だからこそ、その日その日の些細な音の違いまで感じ取れるのだという。

SHOP DATA
名曲喫茶ライオン

東京都渋谷区道玄坂2‒19‒13 ☎03‒3461‒6858 13:00~20:00(19:30LO) 正月休ほか不定休 CDとレコードは1 万枚超。定時コンサート以外の時間はリクエストも可能。

photo : Jun Nakagawa


編集者・コピーライター 山村光春

雑誌『オリーブ』のライターを経て、広告や雑誌の編集・執筆を手がける。『眺めのいいカフェ』(アスペクト)、『おうちで作れる カフェのお菓子』(世界文化社)など著書多数。「やさしい編集室」「京都芸術大学」講師。東京と福岡の二拠点生活。

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