花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
可憐な菜の花で「雛祭り」。Vol.9 / September 02, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
可憐な菜の花で「雛祭り」。
3月3日は桃の節句。別名は上巳の節句ともいい、平安時代には草や紙で作った人形(ひとがた)に身の穢れを移して川などへ流し厄を払った。その流し雛の風習と、平安貴族の子供の間で盛んだった小さな人形で遊ぶ「ひいな遊び」が合わさって、現代へと受け継がれる雛人形や雛祭りとなったという。
京都で行われる雛祭りの行事は華やかさも際立つ。人形の寺として知られる〈宝鏡寺〉では雛人形が飾られるなかで島原大夫の舞が奉納され、〈上賀茂神社〉や〈貴船神社〉では神前に桃の花とこぶしの花と草餅を供え厄除けを祈願する「桃花神事」、〈下鴨神社〉では人形を御手洗川(みたらしがわ)に流して厄払いする「流し雛」で賑わう。
その流し雛をのせるのは藁で編んだ桟俵(さんだわら)。素朴な桟俵をそのまま花器に見立て、飾り気のない菜の花を生けたのが〈みたて〉の雛飾り。シンプルさが菜の花の可憐さを際立たせ、壁に掛けて楽しむのはもちろんのこと、水に浮かべれば流し雛の風情も漂うという仕掛けになっている。
雛飾りを眺めながらいただくのは京の雛祭りに欠かせない「ひちぎり」。こなしや外郎(ういろう)の生地の端を伸ばして引きちぎった上に、きんとんや餡をのせた雛菓子だ。細かな形や意匠は菓子店で異なるものの緑、紅、白と3色揃って作られることが多い。雛飾りに桃の花を外したのは、「ひちぎり」とのバランスを考えてのこと。菜の花の黄色が3色と引き立て合い、華やかさはひと際となる。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年3月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。